第10章 H27.5.4. 桃井さつき
「桃井」
物思いにふけっていると、前を歩いていた赤司君が私の隣に並んだ。
「赤司君…どうしたの?」
「お前には謝らなければならないな」
「え…?」
今幸せな気分でいっぱいな私には、その言葉の真意がわからなかった。
言葉を待っていると、赤司君はふぅ、と息を一つ吐いて話し始めた。
「あの時…紫原が1on1を仕掛けてきた時から、桃井には心配ばかりかけてしまったな。…すまない」
赤司君は私の方を見て、申し訳無さそうに微笑んだ。
「それからもずっといつも通りに話しかけてきてくれていたが…怖くはなかったのか?」
「最初はちょっぴりね…。でも、赤司君は赤司君だもん」
「ふ…桃井は大人だな」
「そんなことないよ」
赤司君は私を大人だと言うけれど、私に出来ることは『いつも通りにみんなと関わる』、それしかなかったから。
本当はすごく、すごく寂しかったけれど…。
「オレは結局、逃げていただけなのかもしれないな…。周りに置いていかれるかもしれない不安や焦りから…」
そう自分を深く反省するような、責めるような、そんな表情をする赤司君。
だけどああなったことは赤司君が悪いんじゃないよ。
誰が悪いわけでもない。
どっちにしろ結局いつかはこうなっていたんだろう。
「赤司君、誰も赤司君のせいだなんて思ってないよ」
「桃井…」
「これはあくまで予想だけど、例えば大ちゃんなら自分の才能の強さを恨んだと思う。きーちゃんなら自分の器用さを。…まぁ、恨むっていうか悲しくなったというか…」
フォローするつもりだったのに、上手く言えない。
すると、赤司君が笑い出した。
「ハハハ、ありがとう桃井」
「う、うん…?」
「確かにそうだな…。それに今はこうして、昔のように笑い合えている」
「うん…」
「それだけで十分だな」
「うん!」
こんなに楽しそうな表情をする赤司君をいつ振りに見ただろう。
綺麗だけど、高校生らしいその笑顔を目に焼き付けた。
「赤ちーん、さっちーん、早くー」
「置いてくっスよー!」
いつの間にか随分離れてた距離で、ムッ君ときーちゃんが私達を呼ぶ。
他のみんなもこっちを向いている。
「待ってー!行こっ、赤司君」
「ああ」
私達は、その距離を埋めるように小走りで向かった。