第10章 H27.5.4. 桃井さつき
「さて、そろそろ行きましょうか」
時刻は午後2時。
「え?どこに行くの?」
「それは行ってからのお楽しみです」
テツ君は焦らすのが好きなのかな。
こっちとしては、不安と期待が混ざり合ってとても複雑な気分だ。
それからしばらく歩いていると、おおきな観覧車が見えてきた。
「あれ、テツ君…」
「着きましたよ」
遊園地だ。
しかも驚くのはそこだけじゃなく、入り口の所には見覚えのある顔が揃っている。
「よぉ」
「これで揃ったかな」
「待ってたっスよ!」
「早く行こ~」
「ワガママを言うなと約束したはずなのだよ!」
「え~そうだっけ」
私がポカンとしているうちに、彼らは次々に盛り上がっていく。
「さぁ桃井さん、行きましょう」
私の背をそっと押すテツ君。
だけど、だけど、あまりにも驚くことが多すぎて、私はまだ呆然としていた。
「な、なんでみんな…」
「ゴールデンウィークだからね~」
「そっ、そうじゃなくって!部活は?!」
「休みをとったのだよ。…ワガママ一週間分を使ってな」
「誠凛と桐皇だけが休みじゃないんスよ?」
パチンとウインクを飛ばすきーちゃん。
他のみんなもどうだと言わんばかりの顔。
これは自惚れてもいいのかな。
私のためにわざわざ集まってくれたって、自惚れてもいいのかな。
「みんな、ありがとう」
今日この日の為にみんなが集まってくれたのだとしたら。
テツ君が『遊園地』という単語を上手く出して連れて来てくれたのだとしたら。
私はどれだけ幸せな女の子だろう。
「なーに言ってるんスか!まだ始まったばっかっスよ?」
「オラ、いつまでも突っ立ってねーで行くぞ」
「楽しい時間は、まだまだこれからです」
「…うん!」
また昔のように笑い合うみんな。
その姿はスッカリ大きくなってしまったけれど、変わらないあの頃の笑顔がある。
私の目の前で楽しそうにしている。
それだけでも、最高の誕生日プレゼントだと思った。