第9章 H27.6.10. 岩泉一
「聴いててね!」
一つ深呼吸した後にそう言ったコイツは、寝起きの掠れた声を元に戻すように何度も咳払いをした。
そしてもう一度ゆっくり深呼吸をすると、歌い始めた。
…鳥肌が立った。
とても、綺麗な声だったから。
ただの誕生日の歌なのに、そうじゃないように聴こえる。
コイツ、こんなに歌上手かったのか。
「…to you… おめでとう岩ちゃん!明後日だけど」
「いや…嬉しい。サンキュー」
「ふふ、良かった」
まさかこんなレアな経験が出来るとは。
こんな誰もいない教室で、好きな奴の綺麗な歌声で誕生日を祝われる。
こんなに幸せな気持ちになれるもんなのか。
「それにしてもお前…歌上手いな」
「ありがとう!私ね、実は歌手目指してるんだ」
「歌手?!」
そして耳にしたのは初めて聞いた夢。
何が好きなんだろうとかいつも気になってはいたけど、まさかそんな大きな夢を持っていたとは。
そりゃあこれだけ歌も上手いわけだ。
「私の夢を話したの、先生以外には岩ちゃんが初めてだよ」
しかもこんな嬉しいことを言ってくれる。
そんな大事なことオレだけに教えてくれたのか。
なんて、うっかり浮かれてしまう。
オレも相当ハマってしまってるな。
「じゃあオレ、お前のファン1号になってやるよ」
「えっほんと?!すごい嬉しい!」
そう言って本当に嬉しそうに跳ねる姿を見ると、とても愛しく思えた。
今すぐ想いを伝えたいなんて、危うく理性がぶっ飛びそうなくらいに。
「じゃあ帰んぞ」
「あー!待って!まだあるの!」
「え?」
「当日は部活で忙しいだろうから…」
そんな小さな気遣いも嬉しい。
そうして出された物は小さな白い箱。
その中に何が入っているかなんて形で何となく想像が出来たが、本当にそれが入っているのかという疑いもあった。
「じゃ、じゃーーん!」