第1章 H27.8.31. 青峰大輝
「おい」
「へっ?!」
便所、と言って部屋を出た青峰はキッチンに来ていた。
もちろんそこには、がいる。
「なっ、青峰君、なんで…」
「便所っつって出てきた」
「あ、トイレなら出て左…」
「いや、そうじゃなくて」
「え?」
青峰がここに来たのはもちろん間違えたわけでも場所がわからなかったわけでもない。
に用があったのだ。
ただ、何から言えばいいかわからずしどろもどろになっているのだ。
「あの…とりあえず、座って?お茶出すよ」
「やっ、いんだよ…っ、くそっ」
「え、青み、ね、くん…」
そしてやっと動いた青峰は、を自分の腕の中に収めた。
そうでもしないとは一人で話を進めて自分も話を切り出せずにいるからだ。
青峰の本能がそうさせた。
「悪りぃ…けど、ちょっと間このまま聞いとけよ」
「ん…」
「あの日…ほんと悪かったと思ってる、ごめん」
ー それは彼らが中学3年生の夏、最後の全中の最中の事だった。
「はー、ダリィ」
青峰は試合前、会場の外でぼんやりと空を眺めていた。
「青峰君…」
「あ?…か。なんだよ」
「いやその…もうすぐハーフなのでアップを…」
「あー別にいいよ、やんなくて」
「でも…」
「うっせーな!どっか行けよ!」
「…っ、…ごめんね…でも、来てね…」
怒鳴られたは一瞬泣きそうな顔をしたが、必死に堪えてその場を去った。
当時、良いライバルがおらず、やる気が完全に萎えていた青峰は試合をする度イライラしていた。
だがそれでも、にだけはいつも通り接していた。
のに、その日青峰はにまでも冷たく当たってしまったのだ。
「青峰君…」
付き合っていたわけではないがお互いに惹かれ合っていた2人の間に、その時深い溝が出来た。
それ以来、は青峰に上手く話しかけることも出来ず、気まずさから青峰もに話し掛けなくなっていた。