第8章 H27.6.18. 黄瀬涼太
ドキドキと鳴る心臓がうるさい。
熱が上がっていくのもわかる。
ジメジメした季節に熱がこもってかなり暑い。
ちゃんと手足交互に出して歩けているだろうか。
「…涼太。改めまして、誕生日おめでとう」
ピタッと止まったと思えば、彼女は真っ直ぐオレを見て言った。
ずっと欲しかった言葉。
直接彼女から、彼女の顔を見て聞きたかった。
ようやく聞けた今、オレの幸せ度はMAXだ。
「ありがと、っち」
すると今度は鞄の中をガサガサと漁りだした。
ああ、プレゼントかな。
プレゼントだよね。
このタイミングで他のものなんて逆に想像がつかない。
そしてスッと鞄から抜かれた手には、何かを持っているようには見えなかった。
完全に期待しきっていただけあって、拍子抜けだ。
「プッ!なんて顔してるの?」
「へ?」
「この手の中にあるんだよ」
「えっ、あ、え?!」
確かにその手はしっかりと握られている。
そしてその手からは若干ラッピングが見えている。
それにしても、あの小さな手の中にあるプレゼントは一体どれだけ小さいのだろう。
「はい、どうぞ」
小さな手から小さな袋が出てきた。
その袋は見たことのないお店のもので、中身は見当もつかない。
「開けていい?」
「もちろん」
気に入るかわからないけど、と自信無さ気に彼女は呟いたが、オレからしてみれば何でも嬉しいから何の問題も無い。
そして包みを開けると、フワッと良い香りがした。
香水?と一瞬思ったけど、こんなに小さな香水は見たことがない。
…となると、
「これ、もしかしてアロマオイル?」
「そう!これをね、浴槽に3から5滴くらい入れて入るとリラックス効果があるんだって!」
「あ…ラベンダーの香りっスか」
「うん!良い香りでしょ?」
「うん、オレラベンダー結構好きっス」
「良かった」
なるほど。
アロマオイルは思いつかなかった。
今まで大きな物を貰い続けていただけあって、こんな小さな物を貰ったのもありがたいけど、何よりこれは彼女なりのオレへの思いやりだと思えばさらに嬉しくなった。