第8章 H27.6.18. 黄瀬涼太
昨晩、明日学校に来たらいっぱい喋れるし、なんて言ったのに全く喋っていない。
目がほんの一瞬、一回合ったくらいだ。
そんなのじゃ物足りない。
早く、早く会いたい。
「紫原っちー放課後もお願いするっス!」
「ん~…まぁいいよ。お菓子のお礼」
「助かるっス」
紫原っちを盾に、無事に部室まで辿り着けますように。
そして早くあの子に会えますように。
そう願って放課後。
紫原っちを連れてすぐに教室を出ようとしたその時だった。
「涼太!!」
今日1日、ずっと会いたくて仕方がなかった人が教室にいた。
大きな眼がオレをすぐに捕らえ、大きな声でオレの名を呼んだ。
その声すらもとても愛しく思えた。
大げさだと笑われるかもしれないが、まるで遠距離恋愛でもしていたかのように。
「っち?!」
「涼太走るよ!」
「えっ」
「いってらっしゃい黄瀬ちん~後でね~」
オレが驚いている間に近くまで来て、腕を掴んでっちが走り出す。
それに合わせてオレも走る。
…何これ。
「はぁ、はぁ…。もういいかな…」
「大丈夫っスか?」
多少校内を走っただけでは、オレの体力には余裕がある。
それに彼女のスピードならば尚更だ。
だけど彼女にとっては全力疾走だったらしく、息切れをしている。
「はぁ…疲れたぁ…。でも、やっと捕まえた」
そう言って、紅くなった頬を緩ませ笑う彼女はとても可愛い。
「朝からご苦労様でした」
「ホントっスよ…」
体育館からは少し遠回りをして、2人並んでお喋りをしながら歩いていた。
そうだ、オレがしたかったのってこういうことだ。
好きな子と2人で隣を歩く。
たったそれだけでこんなに幸せな気持ちになれるなんてそれこそ幸せだ。
「それにしても、よくあんな早く来れたっスね」
「HR終わった瞬間に教室出たからね」
「そんなにオレに会いたかったっスか?」
ただの冗談のつもりだった。
「うん、朝からずっと」
それなのに、とても真剣な顔つきでそう言われた。
真っ直ぐ前を向いたまま。
その横顔は少し紅く染まっていた。
そんな顔して…オレ、自惚れていいの?
「行こうとしてたのに、ずっと周りに群れが出来てるんだもん…」
そう言われると、自惚れずにはいられないじゃないっスか。