第8章 H27.6.18. 黄瀬涼太
「紫原っち、今日は行動を共にしていいスか」
「いいけど~?」
「ありがたいっス」
移動教室は紫原っちと行動して、なるべく人を寄せ付けない。
休み時間は教室から動かない。
そうして出来るだけ女の子との接触を避けてみたけど、やっぱり教室までやって来たりするもんで。
姉ちゃん達が持たせてくれた紙袋も、もう既にパンパンだ。
まだ午前中なのに。
「はぁ…」
「黄瀬ちん大変そーだね~」
「そう見えるっスか?」
「うん」
祝ってもらえるのは嬉しいしありがたいけど、休息をください。
「まぁお昼休みはもう少しマシになるんじゃない~?」
「いや、女の子をなめちゃダメっスよ」
「え~」
そうだ、今からお昼休み。
この時間が一番の戦場だと言っても過言ではない。
だけどオレは大勢の女の子に追いかけられるより、1人の女の子と会いたい。
「バスケ部で集まるという話はないんスかー?」
「ないよー」
「…それはそれでどうかと…」
オレは今年バスケ部に入ったから部員の誕生日はどうしてるかとか知らないけど、仲が良い人達では何かしらしてるもんだと思ってた。
ていうか、おめでとうの一言くらいはくれるもんだと思ってた。
だけどこの人達はそう甘くもなかったようだ。
「黄瀬くーん!」
「げっ、もう来た」
「頑張って黄瀬ちん」
「はぁ…」
そう追いかけられている間、一番会いたい人の姿を探すけれど、全然見つからない。
だけどその人の眼は、オレを捉えていた。
それをオレが知るのはもう少し後。
キーンコーンカーンコーン…
「やっと終わった…」
昼休み終了のチャイムの数秒前、ようやく女の子の群れが無くなった。
オレの休み時間はこれっぽっちも休みじゃない。
「紫原っち、今度はカップケーキっス」
「わーい」
くれる子には申し訳ないと思いつつ、荷物を減らしたいのでお菓子はほとんど紫原っち行きだ。
幸せそうにそれを頬張る姿を見れば、まるで珍獣に餌やりをしている気分になる。
こんなことを言えば捻り潰されるかもしれないけど。
「ん、なんか入ってたよ~」
「あー、手紙っスわ。ありがと」
早く部活に行きたい。
そしたらみんなにも、あの子にも会えるのに。