第8章 H27.6.18. 黄瀬涼太
通学途中、チラチラと寄越される視線。
そんな遠くから見られるくらいなら、直接声をかけてくれた方がいい。
とは言っても、校内に入れば嫌でも声をかけられるけど。
「黄瀬君!お誕生日おめでとう!」
「手作りのクッキーなの!食べて!」
「私はアクセサリー!」
「私は香水!」
「タオル!」
次々と何かしらを持ってくる女の子達は、メイクをバッチリして髪も巻き、胸元を少し開けたところからは小さなネックレスが光っていた。
でもどれもキュンとこない。
そりゃ好きな人がいるってのもあるけど、それだけじゃないと思う。
そしてその好きな人の姿を探すが、中々見つからない。
周りの子が多すぎるしあの子は小さいから。
「あ」
やっと見つけたと思ってつい出た、たった一文字の声もすぐに甲高い声で掻き消されてしまった。
そうしてる間に彼女は一瞬コッチを見たものの、すぐに中へと行ってしまった。
オレが祝ってもらいたい相手は君なのに…
そんな願いも虚しく、オレはその他大勢の女の子に笑顔を振舞うのだった。
「っはー、疲れた!」
チャイムが鳴る数秒前、ようやく教室に着いた。
とは言ってもその数秒前くらいまでが戦いだった。
校門から始まったプレゼントの押し付け合い。
それは下駄箱でも、一階の廊下でも、二階の廊下でも、そして更には教室に入る手前でも起こった。
早く座りたいし手にはプレゼントの山だしでもうだいぶ疲れた。
「大変だね~」
そう声を掛けてきたのは紫原っちだ。
席が近いというのもあるけど、きっと今話しかけてきたのは机に山ほど置かれたプレゼントの中の一部のせいだ。
「クッキー、食べるっスか?」
「え、いいの~?」
「いっぱいあるんで」
「ありがと~」
なんなら、こんなに美味しそうに食べてくれた方が作った子も嬉しいってもんでしょ。
てか食べるの早くね?
騒つくクラスはチャイムと担任が入ってきたことにより少し静かになる。
このまま静かに1日が過ぎたらいいのに。
まぁ、そうもいかないだろうけど。