第7章 H27.6.20. 日向翔陽
朝7時40分。
烏野高校の体育館からは靴が鳴る音とボールが弾む音が聞こえている。
「影山!やるぞ!」
誰よりも元気な声で同級生の影山飛雄の名前を呼び、誰よりも元気良く走り回るのは日向翔陽だ。
日向は烏野高校バレー部、最強の囮だ。
「あれっ」
影山のトスと日向のスパイクが完全に合うのは、入部したて合わせたての2人では10回に1回くらいだ。
とはいえ、スピードが速いから、多少失敗しても相手にとっては取りにくいものだ。
だがこの2人はそれを許さない。
完璧でないとダメなのだ。
「あーーくそっ!もいっかい!」
日向は何度も何度も飛び回る。
そんなに飛んでいい加減疲れないのかと誰もが思うだろう。
しかしそんな疲れよりも彼はボールに触れたいのだ。
「おーい、そろそろ片付けなさいよー」
極めて優しい口調で彼らを急かすのは、主将の澤村大地だ。
主将の声を聞くと、さすがの彼らも背筋をピンと伸ばし、「ハイッ」と元気良く返事をして片付けを始める。
その間も、2人は競争をしている。
「あっ!待て影山っ!」
「うわっ?!」
ギュンっと突っ走ってきた日向にビックリしたのか、影山が持っていたボールが散乱した。
日向をすごい形相で睨む影山に日向は気づかない。
「あっ、さん!足元気をつけて!」
「え」
言われて足元を見たが時すでに遅し。
視界が一気に上へと向き、大きな音を立てて思い切り尻餅をついた…と思ったが、どこも痛くない。
「大丈夫?!」
「あ…ひ、なた…」
少し遠くにいたのに、持っていたボールを放り投げて抱きとめてくれたのだ。
私の頭を守ってくれたことよりも、その反射神経の良さとスピードに驚いた。
バレーじゃなくてもこんなに早く走れるとは、普通の人間じゃないと思う。
「おいコラ日向!ボール全部転がっちまっただろうが!!」
「うげっ!やっべー!」
影山に怒られて慌てる日向。
拾ったボールは最初の競争を初めに、全て体育館に散乱してしまっていた。また手いっぱいに拾ってカゴに入れていく。
「そんなに持ったらまた落とすよ」
「えっ、あっ、ありがとうっ」
落ちそうだったボールをそっと取り、私もボール拾いを一緒にした。