第4章 H27.7.20. 及川徹
「ねぇ。一つお願いしたいんだけど」
「えー、なに?」
「そうやってなんだかんだ聞いてくれる姿勢、好きだよ!」
「いいから早く言って」
あれからなんだかんだ忘れたフリとかもしたが結局負けて、私は今及川くんとお風呂に入っています。
湯船に浸かっていると逆上せそうだ。
「そろそろ "及川くん" 、ってのやめない?」
「え」
「だって付き合ってからどれくらい経つと思ってるの?!」
「う、うーん…」
「名前呼びしてくれたら、今日イチ幸せなんだけどなー」
「えっ、嘘でしょ」
「…今日イチは嘘かも。でも、ほんと呼ばれたい」
「……」
確かに。
私はもう6年も付き合っている相手を未だに苗字に君付けだ。
ずっとそう呼んできて、何の違和感も感じなかったが、言われてみれば確かに変だ。
「それにさ、結婚したら同じ苗字になるんだし」
「へっ?!」
「なに、結婚しないの?」
「や、えと、いや…」
「呼んでみて?」
「えっと」
「ほら、早くー」
頭がグルグルしてきた。
ヤバい、暑い。てか熱い。
「と、とおる、くん…」
「…君付けはやめないんだ」
「だ、だって…」
「まぁ今はそれでもいっか。けど、よく聞こえなかったからもう一回」
…あれ?
なんか、意地悪だ。
これは…変なスイッチ入っちゃったパターンだ。
「と、徹くん…」
「もっかい」
「…徹くん」
「もっかい」
「徹くん!!」
熱い。
熱いよ、徹くん。
湯船でそんなにくっ付いたら、熱いよ。
濡れた髪が肩と頬に当たってくすぐったい。
直に触れる肌が心臓の動きを早める。
「と、徹くん…」
「はー、幸せ。ありがと」
「い、いえ…」
耳にかかる息が頭を真っ白にする。
徹くんの綺麗な声が響く。
ああ、もうダメだ。幸せすぎる。
「徹くん…熱い…」
「一回出てアイス食べて冷やそっか」
「ん…」
「そしたら、また熱い夜、過ごそうね」
「?!」
徹くん。最後の一言は、余計だったと思うんだ。
ほら、もう私の頭沸騰しちゃって…
「?!逆上せたの?!」
熱い夜過ごすどころじゃなくなっちゃったよ。
「…ったく、相変わらず素直なお姫様だなぁ」
2015.07.20.
Happy Birthday to To-ru...