第4章 H27.7.20. 及川徹
家に着き、冷房をつける。
さっきまで閉め切っていた部屋はとても暑苦しい。
「ぅあっつ〜」
「扇風機回しといて」
「はーい」
帰りに寄ったコンビニで買ったアイスを冷凍庫に入れると、私は夕飯の準備を始めた。
「あれ、もう夕飯の準備?」
「今日は後からゆっくりしたいしねー」
「ふーん?手伝おうか?」
「ううん、いいよ」
いつもなら一緒にするところだけど、今日は及川くんの誕生日だから。
私が1人で作ってご馳走したい。
「どれくらいかかる?」
「ひゃっ?!」
真剣に野菜を切っていたら、突然後ろから抱きしめられた。
…危ない。
「うーん…40分くらいはかかるかな…」
「えっ、長い!」
「でもくっ付いてられるともっとかかるけど?」
「うっ…」
こういう甘えたなところは正直かわいいんだけど、料理中はさすがに困る。
ていうかまだクーラー効いてなくて暑い。
「先にお風呂入ってなよ。そしたらすぐだよ」
「…お風呂はと入りたい」
「は?!」
「いいでしょ、今日くらいは」
「え、えぇ〜…」
そんでまたこんな唐突なワガママを言うし…。
今日くらいは、と言うけど結構いつもワガママ言ってるしね。
「別にいいじゃん!別にもう見てるんだし!」
「ちょっ、そういうことじゃないでしょ?!」
本当に、この人は能天気だ。
私の気も知らないで。
こういう時は鈍感だ。
いや、あえて気づかないフリをしているだけなのかもしれない。
「あーもー、わかったからあっちで待っててってば!」
「やったー!約束だからね〜」
「ハイハイ」
お風呂で変な気起こさなければいいんだけど。
再度料理に集中する。
さっきの返事でご機嫌なのか、及川くんも大人しくテレビに向かっている。
なんか、こうしていると新婚みたいで幸せだ。
…なんて、声に出して言えばからかわれるに違いないから絶対に言わないけど。
同棲を始めてからもう結構経つのに、変わらずこう思うのは私だけだろうか。
「あともうちょっとで出来るよー」
「ほんと?!んー、いい匂い」
「手洗って準備してー」
「はーい」
及川くんもそう思っていたらいいな、なんてヒッソリ思ったりもした。