第4章 H27.7.20. 及川徹
「俺ら、そこのかき氷屋のモンなんだけど食べてかない?」
「連れが飲み物屋に並んでますので」
「その連れの子の分もサービスするからさぁ」
こんなしつこくて図々しい勧誘があるかってんだ。
ああ、ダメだ。
進路が無い。前に進めない。
「どいてください」
「まぁまぁ、そんなイライラしないで。おねーさんかわいいから無料でいいし。ね?」
無料って、商売にならないじゃん。
馬鹿なの?
「おい、どけよ」
半分呆れ、半分焦りでいると待たせていた私の大好きな人が現れた。
このシチュエーション、まるで少女漫画だ。
「ああ?なに、おにーさん。ヒーローごっこ?」
「お前達の汚い手で俺の奥さんに触んないでもらえる?」
「は…人妻?」
真顔で「奥さん」なんて言う及川くんに私は固まってしまった。
確かに、早ければ夫婦でもおかしくはない歳ではあるけれども、あまりにも急なその設定に恥ずかしくなってきた。
「そ、人妻。てことでさよなら」
「わっ」
呆然としている男達を放置して、私の肩を抱いてスタスタと歩く及川くんの顔は、もう本当に大人の男の人の顔で。
カッコいいとは言っていたけれど、いつの間にこんな大人のカッコよさになっていたんだろう。
「遅いと思ったら…何してんの」
「ご、ごめんね」
「何もされなかった?大丈夫なの?」
「え、うん。かき氷勧められただけ」
なんで1人で行かせたんだろ、なんで海なんか来たんだろ、ってさっきからブツブツ自分のこと責めてる。
何も無かったから気にしなくていいのに。
「帰ろう」
「えっ、もう?」
「だってこれ以上いたら今度こそ何あるかわかんないし」
さっきの事、相当応えてるんだな…。
「じゃあ一つだけ」
「ん?」
「せっかく海に来たんだから、写真くらい撮って帰らなきゃ」
そうだよ。
なんで海来たのかって思い出作りにだよ。
ちょっとあんな事あったからってすんなり帰るわけにはいかない。
「よし、ここでいっか」
「そんなに場所選んで何するの?」
「ん?や、人が写り込むの嫌だし、綺麗なところで撮りたいしね」
「なるほど」
2人で出掛けると、こうして写真を撮るのは私の中のお決まりだ。
コッソリ印刷してアルバムにしている。
多分こういう事は及川くんよりも私の方が張り切っている。と思う。