第3章 H27.7.29. 笠松幸男
「で、なんでカラオケ…」
あれから私達は、そろそろ違うところに行こうと、カラオケにやって来た。
もちろん私の提案である。
黄瀬と来るのは少し躊躇われるが、笠松先輩とならいいかと思った。
先輩には悪いが、黄瀬ほど上手くないだろうという私の勝手な想像だ。
それに、先輩とは音楽の趣味が合うので丁度いい。
「まぁいいじゃないですか」
「…いいけどよ、お前、少しは気をつけろよ」
「え?何が」
「…はぁ、まぁいいや。今は歌うか」
何か言いたげな雰囲気だが、それ以上聞くにも聞きにくくなってしまった。
またそのうち聞けるだろうか。
「んじゃ、幸男さん先どうぞ」
「えっ、や、なんでだよ」
「えーなんとなく?」
「ったく、しゃーねーな」
とか言いつつ、ちょっと楽しそうな顔していますよ、幸男さん。
やっぱり音楽が好きなら上手いのかなぁ。
なんて、ぼんやり思っていたら曲が始まった途端ビックリした。
ビックリする程上手い。
黄瀬と行くより良いなんて思ってごめんなさい。
歌う先輩はかなりカッコいい。
バスケの次にカッコいい。
プロみたいな歌いっぷりだ。
私はうっかり見惚れてしまった。
「めちゃくちゃ上手いじゃないですか!」
「あ?そうか?」
歌い切ってスッキリしたのか、振り向いた先輩の顔はかなり清々しいといった感じだ。
趣味って極めるとここまで凄くなるんだな、と、自分の趣味を振り返ってみたが、極めていいものかどうかもわからない。
考える事はやめた。
「じゃあ次お前な」
「あ、そうですよね。何歌おうかな〜」
このデート、ちゃんと先輩の為になってるんだろうか。
私はいろんな先輩見れて楽しかったけど、本来の目的である先輩の女慣れは達成出来てない気がする。
とりあえず、喫茶店での緊張感とは違ってカラオケは楽しそうだ。
てことは、趣味さえ合えば少しは楽に話せるんじゃないのか?
よし、これだけわかれば進歩だ。