第3章 H27.7.29. 笠松幸男
すっごい勇気出したんだろうなぁ。
全部がカップルってわけじゃないけど、これだけいたら私達だってカップルだと思われる可能性は高い。
そうしたら私を女子だと意識せざるを得なくなる。
それをわかっていながらも店を変えることをしなかったのは、単に暑いのが嫌だからなのか、自分を変えたいからか、もしくは私への気遣いか。
まぁ、最後のはまだ難しいか。
「幸男さん」
「ぶっ!!」
物は試しと、ちょっとした好奇心で先輩を名前で呼んでみたが、想像以上に動揺させてしまった。
「大丈夫ですか?」
「…っ、おまえ、なぁ…」
「だって、せっかくのデートならと」
「デ、デデデートじゃっ、」
「いや、そうなんですけど…」
女子との会話を慣れさせるなら、まず私を女子だと意識させなければならない。
だとしたら、こちらも積極的にいかざるを得ないのだ。
許してください、笠松先輩。
「あのですね、女子、との会話を慣れさせるためのこれですよね?」
「う…まぁ…」
「わかってるなら頑張ってください!いいですか!」
「…なんでこんなこと…」
その気持ちもよくわかります。
わかりますとも。
だけど今はそんなこと考えても仕方がないのだ。
とにかく先輩にも少しはやる気を出してもらわないと。
「幸男さん」
「んあっ?!」
声が裏返ってしまう幸男さん。
もとい笠松先輩。
面白いけど笑ったらダメだ。
「『ああ』や『ちがう』だけで会話って、人間じゃないです」
「ゔっ」
「ていうか、女子に対して失礼過ぎです」
「ゔっ!」
「更に目も合わせないなんて、失礼極まりないです」
「ゔっ!!」
見事に心に突き刺さっている様子だが、私は躊躇わない。
ここで半歩でも下がってしまえば、先輩は一生このままだろう。
…なんて、私何目線なんだろう。
「とりあえず何か注文しましょう」
「お、おう…」
それから私達はお茶しながら、ありきたりな話をする事を努めた。
…が、バスケ馬鹿な私達にありきたりな話というのは難しいようで。
そんな時は 幸男さん 攻撃でなんとか本来の目的を繋ぎ止めた。
もちろん、先輩にはかなり怒られたが。