第1章 偏屈者の行き着く先は(轟 焦凍)
「私、耳郎響香ってんだ。あんた、なまえさんっていうんでしょ?轟と知り合いなの?」
「あー、うん。いちおう、」
なまえは歯切れ悪く目を伏せた。「幼馴染みっていうか……うん。それに近い感じ」
「そっか。ごめんね。轟の奴、無愛想で」
「いいの。もう慣れてるから。それに……」
ぱっと顔が上がった。「焦凍はね、ほんとはとっても優しいの。誠実なのを隠してるだけ」
思わず、僕らは顔を見合わせた。心配は無用だったのかもしれない。この子の目から、どれほど轟くんを信頼しているのか伝わってくる。きっと、僕らが思ってる以上に、2人は長い付き合いなんだ。
「誠実?あいつがか?」
かっちゃんが口を開いた。器用に片方の眉を上げている。「あの敵(ヴィラン)を拷問にかけた奴が?」
「かっちゃん……ほんとに君って」
ぎろり、と睨まれた。「なぁ女、」となまえにも目と鼻の先で威圧。「お前、マジで轟のなんなんだ?相手もしてもらえねぇ、ナードのお前が幼馴染みを名乗れるとでも思ってんのか?」
それはいくらなんでも————!
言い過ぎだ、と頭にカッと血が上った。何の権利があって、その子につっかかるんだ。
だけど、僕は、文句を言おうとしたものの、結局声を出すことができなかった。
突然、かっちゃんの身体が、目の前から消えたからだ。
「!?」
気付いたときには、氷の壁ができあがっていた。なまえを守るように、ぐるりと半円状に取り囲んでいる。
驚いて後ずさろうとした僕の靴も、凍って床の上から動かせない。一陣の風にはっとして振り返る。
「轟くん———」
教室の入り口に、彼が立っていた。右手を顔の前に掲げ、僕らの方に向けている。
「どういうつもりだよクソ!離せ!」
頭上から声がした。見上げると、教室の天井付近まで伸びた氷の塊に、かっちゃんが磔にされていた。両手両足を氷で固められ、ご丁寧に喉元に鋭い氷柱を突き立てられている。なるほど。これじゃ得意の爆破も出せないのか。
ぎゃーぎゃー喚くかっちゃんの口から出る息は白い。周りを見渡すと、教室のほぼ全てが氷に覆われていて、巻き込まれた生徒たちが途方に暮れた顔でこちらを見ていた。珍しい。と僕は思った。
一瞬で空間を氷結させるにしても、轟くんほどの人なら、もっと制御ができたはずなのに。