第1章 偏屈者の行き着く先は(轟 焦凍)
「上鳴、あんた話しかけてきなさいよ」
耳郎さんがけしかける。「無理無理」と上鳴くん。
「フツーに無理だろ。この流れでいけるか?」
「男のくせに意気地ないわね。あの子が可哀想だと思わないわけ?」
「思うけど、さ。」
上鳴くんが降参のポーズをした。「この状況で”あんた、轟のなんなわけ?”って聞けってのか?そんな空気読めねー奴いねーだろ」
「おい、お前、半分野郎のなんなんだ?」
空気読めねー奴いた!
「かっちゃん」と思わず声に出してしまう。そう。僕の幼馴染みで、戦闘の天才で、問題児。”個性:爆破”の爆豪勝己が、なまえを見下ろすように立っていた。
「どういう、意味?」
首をかしげたなまえの前に、「だー!かー!らー!」とかっちゃんが机を叩き折らんばかりの勢いで両手をついた。
「あのクソ野郎とどんな関係だって聞いてんだよ!」
声を荒げながら乱暴に机を殴る。「普通科の底辺が!?」机を殴る。「どういう狙いで!?」また殴る。「この俺のクラスに来てんだよって聞いてんの!」
「おいおいおい爆豪!」
見かねた上鳴くんが止めに入った。「お前、いくら轟が嫌いだからって、それはねーだろ!」
「黙っとけアホ面!」
「あほづっ……!?」
ぶふっ、と耳郎さんが吹き出した。ああぁ、これはまずい。
「ご、ごめんね上鳴くん。かっちゃんはあんまり、自分より下の人間には興味ないんだ」
「緑谷、それ全然フォローなってないから」
肩を小刻みに揺らしている耳郎さんに突っ込まれた。彼女は、「なまえ、驚かせてごめん」とかっちゃんを平然と押しのけた。「うちのクラスの男子は馬鹿ばっかりなんだ。勘弁してやって」
強い。強いぞ耳郎さん。
「ありがとう、ございます」
なまえがおずおずと頭を下げた。「私のほうこそ、普通科なのにA組の教室に来ちゃってごめんなさい」
「いや、いいんだよ。そういうの、気にしない方がいい」
僕もそう思う。と心の中だけで同意した。どうしよう。今更発言するタイミングがない。