第6章 お兄ちゃんオーバーケア②(轟 焦凍)
「今さ、学園祭の準備で忙しいんだ」
お茶が熱くて飲めないので、ふーふーしながら近況報告をする。
「演劇をやるんだったか」
焦凍兄さんは猫舌ではないから、平然とお茶をすすっている。我が兄ながら色々と鈍感なんだこの人。
「そうそう、で、真面目に練習やる子とやらない子がいて喧嘩になって」
「へぇ」
「そもそも準備が大変な出し物選ぶなよって話なんだけど、しょうがないから私が間に立って諌めたの」
「大変だな」
「で、とりあえず落ち着いてじゃあそろそろ練習再開しよっかって時に私が『それより主役の服がダサいから変えようよ』って言ったらなんかすごい場が荒れて」
「確かにあればダセぇな」
「そー!ほんとありえないと思う。一番深刻な問題じゃんって私も・・・」
口を閉じ、湯呑みを静かにテーブルに置く。
焦凍兄さんも気付いたのか、私と目を合わせないように明後日の方向を見ていた。兄さん、と呼びかける。
「どこで見たの?」
「・・・」
練習風景はおろか、校外の人は本番しか見る機会がないはずだ。もちろん主役の衣装も。どこで見たのだろうか。今までの体験から推測する。盗み見、盗撮、誰かの個性?それとも不法侵入で・・・えっどういうこと?
「兄さん、それはストーキング的な?」
「何の話だ」
うっわ、すごいお茶こぼしてっけど!嘘つくの下手くそか。
「頑張っているなまえの姿が見てぇから」
「見てぇからって何をした?どうせ冬美姉さんが本番観に来てビデオで撮影するじゃない」
あれも大概恥ずかしいのだが。
「演出班は裏方だからビデオに映らないだろ」
私が演出班という情報まで漏洩している……!
「でもねお兄さん、これは犯罪ですよ多分」
ヒーロー 一家にあるまじき汚点じゃないのだろうか。心配するが、兄さんはきょとんとしている。
「身内だったらセーフじゃねぇか」
そうなの?
色々アレだけど、うるさく言うのは辞めにした。
立ち上がり、部屋の窓から夜空を見上げる。とりあえず一番頼りになる人の名前を星に向かって呟いた。
「冬美姉さん、いつ帰ってくるかなぁ……」
▲ 我が家で一番強い人に 折檻してもらおう!
= オワリ =