第6章 お兄ちゃんオーバーケア②(轟 焦凍)
▼ 夜1
女子中学生は、悩みが尽きない。
『轟』と書かれた我が家の表札の前に立ち、ため息。
今日の学校も疲れたけれど、私の場合、家に帰ってからも大変が続くのである。
今朝、焦凍兄さんが追い払ったサッカー部の男子・・・鈴木くんという名前なのだけれど、学校で謝ろうとしたら、私の顔を見るなり逃げられた。
彼、すごいスピードだったなぁ、と思い返して感心する。
さすが、エースなだけあるよなぁ。
私の存在が彼のトラウマにならなければ良いが。
走り去る背中が脳裏に焼き付いている。あの学ランと一緒に、私の青春も遠退いた。
やれやれ、と脱力しながら、スカートを標準的な長さまで降ろす。朝、家を出た後で短く折った。学校では膝上15cmが私のスタンダート。戻すのを忘れて兄さんに見つかるとまた厄介なことになるだろう。
服装に乱れがないか確認する。深呼吸を一つして、玄関のドアに手をかけた。
「ただいm」
「おかえり」
言い切る前に出てくるなんて。早いな。っていうかスタンバッていたのか。犬か。
「ただいま、焦凍兄さん」
ローファーを脱いで自分の部屋に向かう。当然のように兄さんも付いてくる。いつもならベタベタしてくるのに、今日は少し距離が空いている。朝におもいきり説教したのが効いたみたいだ。
「今日も疲れたな、なまえ。飯にするか?風呂にするか?」
答える必要はないので、私は黙っている。家が静かだ。そういえば、今夜は冬美姉さんがいないと聞いている。ということは、つまり、あれか、今日は兄さんと私の二人・・・?
まじか、と思った瞬間、肩に手がポンと置かれた。
「風呂にしようか」
顔が近い。
困っていると、私たちの横の襖がスパーンッと勢いよく開いた。
「おかえり我が愛しい娘よ!団らんの時間だな!?」
「お父さん………」
「親父………」
一番うるさいのがきたぞ。