第6章 お兄ちゃんオーバーケア②(轟 焦凍)
「お父さん、こんな時間にいるなんてめずらしいね」
メラメラと燃えている父は「有能なサイドキックのおかげで仕事が片付いてな!」と両手を広げた。
「さあ父さんと夕餉を食べよう!」
「ちょっと待て、親父」
焦凍兄さんが、私を背中に隠すようにして一歩前に出る。
「なまえはまず風呂に入るんだ。俺と一緒に」
最後の情報初めて聞いた。
熱気や冷気を出して対峙する二人を置いて、私は自分の部屋を目指す。こういう時、廊下の長いこの家の広さを呪いたくなる。
私の後ろを追う形で、言い争いは続いた。
「飯」「風呂」「飯だ」「風呂だろ」
仲は悪いけど、似た者親子だなぁ、と私は思うわけである。
自室のドアを開ける頃には、二人の悶着は口喧嘩から掴み合いへと発展していた。お父さんの腕は太くて逞しいけれど、対抗する兄さんの身体は細い。二人は私に向けて声を揃えた。
「「なあ、どっちがいいんだ?」」
私はそれを鼻で笑ってあしらった。「うざ」
吐き捨てて、パタンと扉を閉める。一瞬の沈黙の後、バタバタと騒ぐ声。
「冬美ィ~~~!うちの末っ子が反抗期!」
「姉貴!!なまえをなんとかしてくれ!!!」
おねーちゃんは修学旅行の引率で外泊中なんだなぁ。
鼻歌を歌いながら、私は制服のセーラーを脱ぎ部屋着に着替える。
▲これが我が家の標準コミュニケーションである