第5章 お兄ちゃんオーバーケア①(轟 焦凍)
▼ 朝3
虫の居所が悪いなんて言葉があるけど、はたして虫はどこに居るべきなのか。
学校に行く準備を済ませ、仕上げに髪を梳かしていると、後ろから突然抱きしめられた。
「スカート折ってんのか。短すぎるだろ」
思わずビンタをした、後になってわかったことが2つある。
① 抱きついてきた不審者は焦凍兄さんだったということ。
② そしておそらく、わたしのスカートの不自然感の正体を探るべくチェックをしただけで、他意は無いらしいということ。
それでも、ぶってしまった手前、「ちょっと!」と勢いに乗ってまくし立てることにした。
「あのね、いきなりセクハラはやめよう?いつも言ってるでしょ」
頬にもみじの跡を残して、でも全くこたえていない様子で、焦凍兄さんはぽかんとした顔をした。
言い訳も謝罪の言葉も無いので、「あのさ、」と責める。「黙ってないで、なんか言ってよ」
「ありがとうございます」
そうではなくてね?
「報告、連絡、相談!」
腰に手を当てて、わたしは叫んだ。「日本社会の基本はホウ・レン・ソウ!わたしに触るなら、まず本人の許可を得てからにして!」
「わかった」
「本当にわかった?」
「わかった」
「仲いいわねぇ、ふたりとも」
のんびりした声は冬美姉さんだ。
▲ 今日も我が家は平和でお盛んである。