第5章 お兄ちゃんオーバーケア①(轟 焦凍)
「連絡先を聞くということは、あなたに気があるのね」
冬美姉さんが茶化した。
「わかんないけど、でも、わたしもちょっと”いいな”って思ってるんだ。だから昨日前髪切りすぎちゃって死のうかと思った」
「簡単に死のうなんて考えちゃダメよ。癖になってしまうから。ところでその子、もしかして、サッカー部の子?」
思わず手が止まる。
その通り、サッカー部の、いわゆるエースだ。
「……知ってるの?」
「たまたまね」
鏡に映る冬美姉さんが苦笑した。申し訳なさそうに、「あなたが留守の間に、ちょっと」と付け足した。
ナンテコッタ。
どうやら、わたしの知らないうちに何かあったみたいだ。
「それ詳しく聞きたいような、聞きたくないような……」
気持ちの天秤は聞きたくない方へ傾いていた。「まぁでも付き合ってもないし。一回、いっしょに帰っただけだし。あ、焦凍兄さんにはこれ内緒ね。」
人差し指を立てて、"ナイショね"、のジェスチャーをする。
兄さんにバレたらR-15表記が必要になるかもしれない。主に猟奇的シーンの挿入で。冬美姉さんはうっかりしてるところがあるから、ちゃんと釘を刺しておかないと。
「そうね、口は災いのもと。気をつけます」
冬美姉さんはふわりと笑い、部屋から出て行った。
「もう手遅れかもしれないけど」と言い残して。
「まじか」
▲ 前髪の長さなんて、ちっぽけな悩みだったのかもしれない。