第5章 お兄ちゃんオーバーケア①(轟 焦凍)
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「行ってきまーす」
「待て、なまえ」
「何?行ってきますのチューとかいらないからね」
「いや、それはさすがに」
「引かれると逆に寂しいんだけど」
「じゃあ……」
「"じゃあ"って何さ。しないよ。あー今日もいい天気だ」
玄関の外まで見送りに来てくれた焦凍兄さんに、じゃあね、と手を振る。
「なまえ、さっきから虫が」
「えっ」
それ早く言おうよ
「どこどこ!?大きいやつ!?」
「あぁ」
「うえぇ、取って!」
「追い払っていいのか?」
焦凍兄さんが涼しい顔で、「ほうれん草だろ?」と頭の横に両手を掲げる。「許可がないと」
「いやそーいうイジワルは今いいから!はやく!」
「わかった」
満足そうに、焦凍兄さんは右腕を速やかに下げる。
そして後ろ手に凍結の氷河を走らせた。
家の前の道路に沿って、刺々しく凍りつくアスファルト。
突如上がる男子の悲鳴。電柱の陰から走り去っていく、あー………あの人って、もしかして。
「追うのはサッカーボールで十分だろ。女の尻はまだ早ぇよ」
見覚えのある背中に向かって、焦凍兄さんが悠長に声をかけた。そのセリフ、おじさん臭いよ?と突っ込むわたしの肩を、まだ冷たい手が引き寄せる。
「妹に近づく悪い虫は、おれが全部駆除してやるからな」
ナンテコッタ、虫ってそっちの虫でしたか。
△ 日本語って難しい………ッ!
= ツヅク =