第3章 I'll bet she will - - - (上鳴電気)
拾ったスマホの持ち主が同じ学校の同学年だった。というわけだ。
ここまでくると、急に親近感すらわいてくる。
『んじゃさ、次の休み時間俺がそっち取りに行くよ……あダメだ、ヒーロー基礎学の準備で時間ねぇや』
「いいよ、じゃあ私が行く」
『マジかー!女神か!さんきゅー!』
いえいえ、と述べた後、ヒーロー基礎学?と聞きなれない単語が頭に残った。
『んじゃ、俺A組だから!』
「え゙ッ!?」
『よろしく!』
「ちょ、」
ちょっとタイム、と言いかけたところに、予鈴が鳴った。
電話の向こうでも、少し遅れてチャイムが鳴る。微妙にズレた二重の音が気持ち悪い。
音のうねりに紛れて、いやー、楽しみだわー、と呟く声が聞こえてきた。『こっから始まる恋もアリだな?』
『今日中にフラれるに500円』と誰かの声。
『オイラは昼休み中に800』と別の声。
『相手が彼氏持ちに1000』また別の声。
『お前ら賭けるね~、じゃあ俺は………』
そこまで聞いて耐えきれず通話を切った。向こう私のことで賭け事してる。全部丸聞こえてたよ。
私の隣の席では、さっき話しかけてきたクラスメイトが提出課題にせっせと励んでいた。ノートに顔を近づけている彼に、ねぇ、と声をかける。
「A組って、ヒーロー科だっけ?」
顔を上げた彼は、何を今さら……と怪訝そうな顔をした。「そうだよ、先週ヴィランに襲撃された方のクラスな。新聞にでっかく出てただろ」
「行ったことある?」
「A組に?用事がない」
「だよね」
あー、無理、間に合わん、と彼が右手を突き出した。「ノート見せて」
私は一瞬きょとんとした後、愛想笑いを浮かべて曖昧な返事をした。ノートを渡す。
古典、と書かれた表紙。一方あの人たちは、ヒーロー基礎学を受けるらしい。善良な市民のため、日本のため、未来のため。
そんなA組の男子があんな軟派な奴なんて。
マジか、と思ったところ、例のスマホが震えた。今度はメッセージの着信だ。通知画面がパッと映った。
『俺の名前、上鳴電気な!クラスで一番イケメンだから、A組来たらすぐ分かると思う!っつーわけで、これからよろしくお願いします!!!』
" これから"って何?