第3章 I'll bet she will - - - (上鳴電気)
机の上の、例のスマートフォンが振動した。
画面に表示されたのは、発信者:「みねた」の文字。
「みねた、」
と私は呟いてやや身構えた。
どうやら、みねたさんから電話がかかってきたらしい。
出た方が良いのだろうか。
迷った。少し考えた後、3コール目で、応答のボタンをタップした。
スマホを両手で持って、恐る恐る耳に当てる。
『あ、出た』
が、最初に聞こえた声だった。
男の人だった。遠くの方から、『マジ?』と別の人の声も聞こえた。
もしもし?あのー、 すんません、 と相手が喋る。『俺、そのスマホの持ち主なんスけど………もしもし、聞こえてる?』
「あっ、ハイ!」
慌てて返事をする。通話に出たは良いものの、何を話せば良いか頭が回っていなかった。
「け、今朝、電車で拾いました。私が持ってます」
『きたこれ!』
とすかさず返事がくる。『女子だッ!!!!』
「は?」
うひょ~~!!!と電話口の向こうが騒がしくなる。私の意思とは関係なく、耳が音を拾い集める。
『よっしゃ!オイラの勝ち、500円おくれよ切島』と奥から聞こえる男子の声。
『マジかぁ…フツーここはおっさんが出てくるだろ』
と、別の声。
全部で3種類の男子の声。
①スマホの持ち主、②切島、と呼ばれた人、③もう一人。
なんだ?と私は眉を潜めた。電話をかけて、男性と女性どちらが出るか賭けていたのだろうか。おっさんじゃなくて申し訳ない。
『いやー、助かったぜ』
最初に出た人が再び喋った。『学校着いたらケータイ無くてマジ焦ってさー!ありがとな!拾ってくれて 』
湿り気のない、さっぱりした口調だった。明るくて、裏表の無さそうなタイプ。ノリや言動の軽さから、同世代、もしくは年下、と考える。
「このスマホ、どうすればいい?」
耳に当てたまま、私は尋ねた。「駅に届けておけば良いかな?」
いつも使う駅名を伝えると、『んー、だな!』とカラッとした声が弾む。『すぐには集積所に送らないだろうしな、でも身分確認とかメンドイんだよなー』
近いなら、直接手渡しが早くね?と、至極当たり前のように相手は言った。