第3章 I'll bet she will - - - (上鳴電気)
「なまえ、今日の古典て提出あったっけぇ?」
机上のスマホと睨み合う私に、隣の席の男子が尋ねてきた。部活に励み、授業中によく寝ている奴だ。
「あるよ」と私は答えたけれど、その後の「やべ、どんなんだっけ」の言葉は聞き流す。それよりもため息が出る。
だってスマホなんて一番厄介な拾得物だ。プライバシーの塊、ロックのパスワードがわからなければホーム画面も開けない。
下手に触って泥棒なんかと間違われたら最悪なわけだし、ここは素直に、放課後駅員へパスした方が良いかもしれない。うん、そうしよう。
拾った物を届けるなんて、根が真面目のいい子ちゃんだな。と自分を褒める。
こうして足をぶらぶらさせている私の制服のスカートは濃い緑。灰色のブレザー、袖と襟に入った2本のラインも濃い緑。
極め付けの、男女お揃いのこの赤いネクタイ。
雄英高校に通っている、と口にすると、周りからは大層驚かれる。入学して間もない今でさえ、いろんな感情が混じった「へぇ、すごいね」の感嘆を、既にそれなりの数は浴びてきている。
でもそこですかさず言うんだ。「普通科なんです」って。
我が国最高峰の教育機関、雄英高校。
ヒーローを志す者であれば避けては通れない道であり、全国の少年少女憧れの場所、言わずもがな、国内屈指のヒーロー科を有する学校。
続いて有名なのはサポート科、次いで経営科。最後に申し訳程度についているのが私の所属する『普通科』というヒエラルキー。
私は雄英の生徒です、の後に、普通科です、と続けると、途端にみんな優しくなる。「あぁ、そうなの」って、安心するような人もいるし、期待はずれの表情を浮かべる人もいる。
どうも世間の目から言うと、雄英高校普通科の生徒っていうのは、なんとなく、夢破れて、みたいなイメージがあるらしい。華やかなヒーロー科の生徒に僻みながら、どよどよ淀んでいる感じ。実際、ヒーロー科の滑り止めとして受験して、泣く泣く普通科に入ってきた子も少なくない。
まぁ私は最初から普通科志望で受験した、ドストレート中流家庭の平凡凡人だから、この学歴で十分満足しているんだけど。
それでも激戦の受験戦争を勝ち抜いた誇りと、ちょっぴりの劣等感は拭えない。ヴィジュアルのレベルがやたら高いヒーロー科女子を横目に、毎日制服に袖を通して生きている。それが私だ。