第2章 Kaboooooom!!!(爆豪勝己)
爆豪勝己は勘は鋭いが察しが悪い。他人の心の機微は読めない。
「用がないなら、帰れよ」
まして乙女心などわかるはずがない。
「あありますッ、あの、」となまえが慌てて振り返り、わたわたと両腕を振り回す。「あの、あれです。あの、あああ、」
ああああああ
バグったゲームのように、同じ音が繰り返された。ガシャガシャと全身を動かすなまえの目には、可哀想に、ぐるんぐるんと渦巻き模様ができそうだ。
「ああああ…………………くしゅ」
「あ?」
くしゅ?
教室中の首が左に傾いた。くしゅと言っても、くしゃみの音ではないようだ。
「握手」催涙ガスの効果は薄れてきているはずなのに、彼女は涙声を出す。「握手、してください」
そしてか弱い、震える右手が差し出された。
ほわー、と真っ先に反応を示したのは麗日だった。両手で頬を包み込み、「なんか、こっちが照れちゃうわぁ」と甘いスイーツを口にしたような表情を見せている。
「爆豪さん、この子はね」
なまえの肩に肘を乗せる発目は、優しい笑みを浮かべている。「体育祭でアナタを見てから、毎日アナタのことばかり喋っているんですよ。握手くらい、してあげたって良いでしょう?」
「お、おう」
ストレートな交渉に蹴落とされたのか、爆豪は素直に応じた。右手をゆるゆると動かして、目の前の右手を軽く握る。
途端、なまえの表情がさっと変わった。下手したらカチリとスイッチが入った音も聞こえたかもしれない。つまり、衰弱した表情から一転、水を得た魚のようにパッと元気が戻ったようだった。
にぎにぎ、にぎにぎ、にぎにぎにぎ
そして握る握る。初めは遠慮気味に片手で。次に両手で包み込む。「アァ………ああぁ…………!」と感慨深げに、その感触を味わうように、爆豪の手の平を指圧していく。