第2章 Kaboooooom!!!(爆豪勝己)
促され、なまえは顔を上げた。赤く充血した目をして鼻をすすって、両手で口を押さえてくしゃみを連発する度に、顎下まで伸びた黒い髪の毛がふよんと揺れた。その酷い花粉症のような症状が緩和するまで、辛抱強く待つ必要があったが、短気な爆豪には難易度が高い。「あのなぁ、」と語気を荒げて立ち上がりかけるも、目の前の銃口と目が合う。にっこりと笑う発目とも目が合い、「あのなぁ......!」と苦し紛れの声と共に再び椅子へと腰を下ろした。その流れを5セット程繰り返した頃、ようやくなまえがのろのろと声を発した。
「あの、」
小さな声だった。口を閉ざし様子を伺っていた教室のほとんど全員がそれでも聞き逃したほどだった。「はァ!?」と間髪いれず聞き返した爆豪のそれは、威嚇ではなくどちらかというと突っ込みに近い。
あの、となまえはもう一度口にした。まごつきながら、のろのろとした動作で立ち上がる。誰が見ても混乱しているのは明らかだった。あ、あ、ああああの、と声を出す。発目は何も言わず、大きな瞳で見守っている。なまえの口からは音がこぼれていく。泉からどんどん水が溢れ出るように、吃る声が連なっていく。
「あああああの、あのあのあの…………」
爆豪が見つめる前で、みるみるうちに彼女は顔を染め上げていく。おやおや、これはもしや?とギャラリーの数人がニヤつき始める頃にはとうとうオーバーヒート。声は途切れ、彼女は脱兎の如くその場から逃げ出そうとした。しかし発目に阻止される。
「どうしたんですかなまえちゃん。ファイトですよファイト」
「明ちゃん……」
降参ですと言わんばかりに発目にへなへなと縋りつく。「やっぱ無理だよ」
「何言ってるんですか。こういうのは、自分の言葉で伝えなきゃ」
「そうだけど、でも、」
「あんなに練習したじゃないですか。私がついていますから、勇気を出して!」
何だろう、あの茶番は。
ポカンと待ちぼうけを食らっている爆豪の目の前で展開される、めくるめく女子の友情、青春の香り。ここを体育館裏と間違えているのかな。
意外だなぁ、と独り言を漏らしたのは緑谷だった。発目さんて、あまり他人に深入りしない、ドライな人間関係を築いていると思っていたけど、女子らしく面倒味の良い一面もあるんだなぁ、と。