第1章 タイムスリップ
城は上へ下への大騒ぎになった
そりゃそうだ
お殿様が居なくなったのだから
しかもそのお殿様の体調は良くない
何処かで倒れてやしないか
襲われてやしないか
様々な憶測が飛び交う
さて、ところで
真っ先に馬へ飛び乗ったのは恒興ちゃんだった
あの機敏な動きには是非とも着いていきたい所なのだが私は女子で運動という物がすこぶる苦手で
当然のように一人で馬に乗れない
恒興ちゃんの動きに着いていけて馬に乗せて貰えたのなら行けたんだろうけれど
「はぁ…」
自然と溢れる溜息は長い
今の私に出来る事が無事を祈るだけだなんて
何の冗談だろう
神様の悪戯とかだったらぶん殴ってやるから降りて来い
「…宮…」
鈴の鳴るような綺麗な声で私を呼んだのは大将の奥方様の帰蝶さん
美しい風貌にそれに負けない可愛さを兼ね備えている彼女は女の私でも見蕩れるほど
「帰蝶さん…」
「殿は…無事じゃろうか」
不安げに揺れる瞳
ふぁ、かわいい
「大丈夫ですよ!大丈夫!案外ケロッと帰ってきますって。なんてったって私の尊敬する大将なんですから」
微塵も慰めにならないような台詞なのに帰蝶さんは安心したように微笑むから
思わず抱き締めてしまった
…いい匂いした…