第2章 殿
「にしても…戻らないね」
白米に味噌汁、魚に漬け物とシンプルな朝食を掻きこんでいるサブローはぽつりと聞こえるか聞こえないかといった音量で呟いた
「…残念でしたね」
ちらりと彼を見てから手元の紙へと目を落とす
普段なら大将が食べる様子をじっくりと見ながらたまに話しかけていたのだが彼は似ているけれど私の大将ではない
見てもなんの得もない
…見た目だけなら似てるんだけどなあ、本当
「ね、何読んでるの?」
いつの間にやら茶わんを空にしたサブローが隣に来て私の手元を除き込んだ
「何って…和歌集」
仕事中で、しかもお殿様(表向き)の前で読むものではないんだけど何分暇なのよ
「へぇ、面白い?」
それに彼は気にしないでしょう
「面白い。…まぁ、殿は読めないでしょうけど?」
皮肉を込めての言葉なのに彼はにっこりと笑った
「うん。凄いね」
どきりと心臓が跳ねたのはきっと大将と同じ顔だから