第11章 -恋心-(及川徹)[後編]
前を歩く及川は、
もう脚を引きずっておらず、
ちゃんと治ったんだと安心した。
「女子の体育館、空いてるよね?」
こちらを振り返らずに及川が言う。
「えっ⁈うん。」
女子が使っている第二体育館に行くと
見事に誰もいなかった。
体育館に入り、及川は
片方のシューズを取り出した。
「はい。コレ…。」
それを見て、わたしは、
ずっと持っていた
及川のもう片方のシューズを渡した。
「ありがとう。」
でも、及川はシューズを受け取らず、
そのままわたしを抱き締めた。
「…っ⁉︎ちょっ…⁈及川っ⁈」
「すみれちゃん…。」
「及川っ…アップしなきゃ…
はなして…!」
「ヤダ…。」
及川はわたしをはなすどころか、
抱き締める力がどんどん強くなる。
「な…なんで…わたしなの?
”ずっと好きだった”って言ってたけど、
じゃあ、なんで…
橋本さんと付き合ったの⁈」
及川の矛盾してる行動に、
思わず聞きたかったコトを、
叫ぶように聞いてしまった。
「ずっと好きだったよ。」
及川はまたあのことばを言う。
「でも…」
「聞いて‼︎」
及川は強い口調で、
わたしのことばを遮った。
「彼女とは…橋本さんとは
付き合ってないよ。」
「な…っ⁈
なんでそんなウソつくの⁈」
「ウソじゃない。」
及川はまだはなしてくれない。
「彼女に頼まれたんだよ。
二股された彼氏の前で、
彼氏のふりをしてくれ…って。」
「でも、振られたって、
あんなに淋しそうにして…」
「言ったでしょ?
”向こうの希望を聞いた”って。
でも、学校で噂広まっちゃって…
オレはすみれちゃんが好きなのに。
だから…
”オレのほうが気をつかってほしい”って
言ったんだよ。」
…っ⁈
ビックリして何も言えず、
思わず及川を見上げると、
及川は優しい目をして、
わたしを見ていた。
「それに、淋しそうにしてたら、
すみれちゃんが優しく
慰めてくれるんじゃないかな…って
思ったしね☆」
いつもの茶目っ気たっぷりに
及川が言う。
「バカっ‼︎わたし…わたし…」
気がついたら涙が溢れていて、
うまく話せない。
「…なぁに?」
及川が優しくギュッとしてくれた。
「及川が…好き。」