第10章 -恋心-(及川徹)[前編]
昨日帰ってから、深夜になって、
及川からメールがきていた。
『すみれちゃ〜ん♡
応急処置してくれてありがと!
病院で診てもらったら、
軽い捻挫だったよ〜。
だから、心配しないでね♪』
ハートマーク付きのメールも
十分軽かったんだけど、
とりあえず安心した。
さすがに今日の朝練は
出てなかったみたいだし…
「……んだって‼︎
すみれ?聞いてる⁈」
「えっ⁈なぁに⁇」
お昼休み…女バレの3年皆で
教室でお弁当を食べていたのだけど、
わたしの頭の中は、
昨日から及川でいっぱいになっていた。
「だーかーら‼︎及川っ!
橋本さんと別れたんだって‼︎」
「へぇ。」
昨日言ってたこと、本当だったんだ。
「あれ?驚かないの?」
「うーん…まぁ、及川だし。」
本人から聞いていた…とは、
さすがに言えない。
「やっほ〜♪すみれちゃん♪」
「及川っ⁈」
突然の声に振り向くと、
今話題にあがってた及川本人が、
教室のドアのトコロで
今日も安定の及川スマイルで、
手をヒラヒラさせていた。
お前のスマイル0円かっ⁈
きゃーーっという歓声と、
少しザワつく教室の隅…。
教室の隅には橋本さんがいた。
「すみれちゃん、昨日は…」
「あ…あぁっ‼︎及川‼︎バレー部の⁈
体育館のコト⁈あれ⁈岩泉は⁈
とりあえず行こうか!」
「ちょっ…すみれちゃん⁈」
及川の足のことはわかっていたので、
わたしはゆっくり歩いて、
空き教室に入った。
「も〜すみれちゃんてば、
こんなトコに連れてきちゃって、
大胆だな〜♡」
「はぁ…。バカ。あんたは、
元カノのクラスも忘れたの⁈」
具体的にいつ別れたのか知らないけど、
おそらく最近なのだろう。
元カノのいる教室で名前呼ばれる
こっちの身にもなってよ…。
いろんな意味で…心が痛いよ。
「ん?忘れてないよー。
すみれちゃんと同じクラスだよね。」
及川はしれっとこたえて、
わたしの立つ横のイスに座った。
「わかってるなら、ちょっとは…」
「フラれたの、オレだよ?」
及川がわたしを見上げて言う。