第10章 -恋心-(及川徹)[前編]
「おい…かわ…?」
な、な、な…なんで⁈
たしかに…今までも、
ふと見せる弱気というか…
いつものヘラヘラした感じじゃなくて、
心配になる時もあった。
でも、こんなことをしてきたのは
初めてだった。
「なんで…こんな時に…
ケガなんかしちゃうんだろ…」
…っ⁈
「せーっかく…
練習試合も組めたのになぁ…」
「練習…試合?」
あ…慰めるって…ケガのほう⁈
いや、だからって…この状況は…⁈
「うん…生意気な…
クソ可愛い後輩がいるトコと…ね。」
「…?
生意気なのに…可愛いの?」
「うん。
オレが凹ましたい奴その2〜♪」
なんだ…それ?
その1は…あいつ…だろうなぁ。
及川はまだ離れない。
「すみれちゃん…応援に来てね?」
「その前にちゃんと足…治しなね?」
わたしは及川の背中をポンポンとした。
「すみれちゃん…もうちょっと…」
わたしはなんだかんだ…
及川に甘いのかな…。
今日だけ…だよ?
わたしは及川の背中を
ゆっくり撫でた。
「ありがと…。ん…柔らか…」
…っ⁈
調子に乗った及川が、
わたしの肩あたりにあった顔を、
そのままわたしの胸へおろしてきて、
わたしの胸に顔をうずめた。
「へ…へ…へ…ヘンターイ!!
この…クソ川ぁぁっ‼︎」
「痛い!痛いってば!すみれちゃん!
ちょっ…オレ、ケガ人!
すみれちゃん、
岩ちゃんみたいになってるって!」
「うるさーーい!」
わたしは及川を突き飛ばして、
及川から離れた。
油断も隙もあったもんじゃない。
その後すぐ岩泉が戻ってきて、
及川は病院に行ったけど、
わたしは及川のことが心配だった。
ケガのこともだけど…
及川の心が…。