第10章 -恋心-(及川徹)[前編]
わたしが見惚れていたのがバレたのか、
及川はふざけたことを言ってきた。
及川の言動にいちいち
反応してしまう自分が情けない。
「少しはおとなしくして…」
及川にそう言って、
タオルを濡らしてきてから、
何か台にできるものを探す。
捻挫の応急処置は、冷やすこと…
それと、痛めたところを、
心臓より高い位置にすること…。
でも、あいにく、
台にできそうなものはない。
「…ごめんね。今だけだから。」
わたしは及川の足元に座り、
及川の足を自分の膝に乗せた。
「…っ⁈…‼︎
もうちょっと…太ももあたりに
乗せてくれてもいいよ♪」
及川は一瞬ビックリしていたけど、
その意味がわかっているようで、
ふざけたコトを言ってきた。
「バカ!そんなこと言ってると、
彼女に怒られるよ?」
及川の足にもう1度、
冷却スプレーをしてから、
濡らしたタオルを足に乗せた。
「怒られる彼女、今いないから。」
「えっ⁈」
「別れちゃった。正確に言うと、
フラれちゃったのかなぁ?」
あっけらかんと言う及川。
でも、どこか淋しそうな…。
「そうなの?
及川の素がバレたんじゃない?」
驚いた…。
でも、わたしは、
軽く受け流すように言った。
及川はたくさん告白されていたが、
3年になるまで彼女は作らなかった。
でも、4月になった途端に
及川に突然彼女ができた。
ウチのクラスの橋本ゆりあ…。
明るくて華やか…美人でモテる。
及川と並ぶとまさに美男美女。
その2人がもう別れた…?
どこかホッとした自分に嫌気がさす。
「あはは。そうだね。
すみれちゃん、慰めてー。」
「…慰めません。」
わたしは及川のことばを拒否して、
また足にスプレーをする。
「うっ…。冷た…っ!
すみれちゃん、冷たいよー!」
冷却スプレーのことなのか、
わたしのことばのことなのか、
よくわからない。
そんなことを思っていたら、
突然及川がゴソゴソ動き出した。
「…⁈ちょっ⁈どうしたの⁈」
及川が起き上がってきたので、
わたしは慌てて及川を支えた。
「すみれちゃん…お願い…
ちょっとだけでいいから…。」
…っ⁈
そう言うと、及川はいきなり、
わたしをギュッと抱き締めた。