第48章 -選択-(岩泉/黒尾)
日曜日をどう過ごしたのか、ほぼ覚えていない。
あっという間に月曜日になってしまった。
会社を休むわけにも行かず、
何事もなかったかのように出社して、
いつも通り仕事をした。
幸いにも今週は、
毎日、黒尾さんと外出だったから、
岩泉さんと話さずに済んだ。
たまにフロアで一緒になるけど、
二人きりじゃないし、
席も隣ではないから、直接話さなくて済む。
何より、今まで付き合っていた時も、
別れてからも、"元上司と元部下"として、
何事もないように接していたから、
先週までと何も変わらない。
"いつも通り"だ。
こんな時まで役に立つなんて、
なんだか皮肉な話だな。
思わず苦笑いしてしまう。
「どうかしたか?」
「い…いえ‼︎なんでもないです‼︎」
いけない…
黒尾さんと同行中だったんだった…
全然"いつも通り"じゃないじゃん、わたし…
横浜方面に向かっているからか、
どうしても岩泉さんを思い出してしまう。
「なんか笑ってただろ?」
「笑ってないです‼︎」
「そーか?まぁ、そんな状態じゃ、
運転させなくて正解だったな。」
…っ⁈
今日は一日営業車で移動なので、
当然部下のわたしが運転しようと
準備していたのに、
黒尾さんにキーを奪われ、
どちらが運転するかで、一悶着あったのだった。
結局、黒尾さんからキーを奪い返せなくて、
わたしは助手席に座っている。
「…すみません。」
「別に謝るほどのコトじゃねーよ。
でも、絶対思い出し笑いしてたろ?」
「違いますってば‼︎」
黒尾さんは、怒ってはいないけど、
わたしの苦笑い…黒尾さん曰く思い出し笑いが
なぜか気になっているようで…
「思い出し笑いするヤツって、スケベなんだぞー?」
「なっ⁈」
黒尾さんの発言に思わず固まってしまうけど、
そんなコト言われて固まってるだけの、
可愛い年次は、とっくに過ぎてしまった。
「…セクハラです。」
ハンドルを握る横顔をチラリと見ながら、
わたしはすぐに言い返した。
黒尾さんみたいなイケメンが言うと、
セクハラも流されてしまうのだろうか…
「わりぃわりぃ、気をつけるわ。」
気をつける気ないな…
はぁ…とため息をついて、窓の外を眺める。
横浜方面に向かう首都高の道…
懐かしい景色だった。