第48章 -選択-(岩泉/黒尾)
今日くらい…いいよね…
自分に甘い自分が心底イヤになるけど、
岩泉さんと朝ごはんを食べられるのは、
やっぱり嬉しかった。
「…悪いな。」
「だから、悪いのはわたしなんで‼︎
ほんとに気にしないでください!」
「おまえ、飲むのは程々にしろよ?
いつもは、部の飲み会でも
あんま飲んでなかったじゃねーか。」
わたしが謝ると、スイッチが入ったのか、
岩泉さんのお説教タイムが始まってしまう。
「だって…緊張してたんだもん…」
「…っ⁈おまえ、ほんと緊張しぃだな。
まぁ、次からは潰れるほど飲む前に、
誰か知ってるヤツのトコ行けよ?」
「…はぁい。」
オレのトコ来いよ…
なんて、言ってくれるわけないよね。
でも、元上司として…
そんな風に言ってくれてもいいのに…
「あ、テレビでも付けててください。
すぐ用意するんで。」
都合のいいコトを考えてしまい、
慌ててそれを心の中で否定して、
岩泉さんにローテーブルの前の
クッションをすすめる。
「あぁ。つぅか、先に顔洗ってからでいーぞ?」
岩泉さんはそこに座ると、
わたしを見上げながら意外なコトを言った。
「え⁈でも…」
「なんだよ?」
「あ…ご飯準備するの遅くなっちゃうし…」
「そんなん別に大して変わんねーって。」
「でも…」
「おまえのスッピンなんて見慣れてるしな。」
わたしが逡巡していると、
岩泉さんは笑いながら、意外なコトを言った。
「……っ⁈
どーせ…大したスッピンじゃないですよーだ‼︎」
わたしは動揺を悟られないように、
明るい口調で答えて、洗面所へ逃げた。
岩泉さんと別れてから、
会社では、"元上司と元部下"として、
今までと変わりなく接していた。
わたしの最後のお願いだったから…。
だから、わたしたちは、
わたしたちの関係はなかったかのように
そのコトについては、
一切触れるコトはなかった。
今は二人きりだから?
会社じゃないから?
ほんとはわたしのコト…
少しは好きでいてくれた?
いろんな感情が一気に心の中を
グルグル回っている。
わたしはそれを洗い流すように、
少しでも落ち着きたくて、
いつもより念入りに顔を洗った。