第47章 -運命-(岩泉一)
店に向かって歩いてる最中、
店を探していた経緯と、
オレらの名前も告げ、
彼女の名前が檜原すみれだと知った。
「調理師の学校に行ってるんだ?
わたしもね、栄養士の学校に行ってるの。」
「そうなのか?
オレも栄養学は興味あるんだけど、
そっちまではやっぱ手を出せなくて。」
「あ、それなら、おススメの本あるよ。
基礎がわかりやすく書いてあるから、
読みやすいと思う。貸してあげるよ。」
「いいのか?」
年は近いだろうなと思っていたら、タメで、
うどん屋の娘で栄養士の学校に通ってて…と、
食に関する共通の話題があるからか、
いつもはあまり自分からは女と話さないが、
檜原さんはとても話しやすい。
「ちょっと二人ともー‼︎
及川さんも話に入れてよー。」
及川がオレと檜原さんの間に割り込んでくるが、
檜原さんはスルリとそれをかわし、
またオレの横に来た。
「ナンパ男と話すコトはないんですー。」
「だから、ナンパじゃなかったんだってばー‼︎」
どうやら檜原さんの、
及川の第一印象は、相当悪いらしい。
「まぁ、コイツはこんなヤツだけど、
悪いヤツではないから、
大目に見てやってくんねーか?」
「んー?まぁ、ハジメくんがそう言うなら。」
「…っ⁈」
突然、"ハジメくん"と言われ、
思わず彼女に顔を見られないように顔を背ける。
「あっれー!ズルい‼︎岩ちゃん、ばっかりー!
すみれちゃん、
オレのコトも"徹くん"て呼んでね♡」
「え?"ナンパ男"でしょ?」
「すみれちゃ〜〜ん‼︎」
「あはは‼︎ウソだよ。もういいよ、徹くん♪
あ、ごめんね。
勝手にハジメくんて呼んじゃったけど…」
及川をなだめた彼女は、様子を伺うように
チラリとオレを見てくる。
「…っ⁈…あぁ。」
「…?わたしのコトはすみれでいーよ♪
あ、ウチ、あそこー!」
檜原さん…すみれが指差す店は、
昔ながらの面影を残しているが、
キレイに手入れされていて、趣のある店だった。
ガラッ…
「ただいまー‼︎」
「すみれ、裏から入れっていつも言ってるだろ。」
すみれと店に入ると、
威勢のいい親父さんの声が聞こえてきた。