第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
青西建設を飛び出して、
とりあえず駅に向かいながら、
わたしは会社に連絡を入れた。
混乱していたはずなのに、
妙に冷静になってしまって、
会社に業務終了の連絡を入れるなんて、
自分の堅物なところに嫌気がさす。
「あ、お疲れさまです。檜原です。」
『檜原さん!お疲れさまです。
やっくんの、どうでした?』
電話に出たのは黒尾くんだった。
黒尾くんてよく電話に出るよなぁ。
入社年数が上にいけばいくほど、
電話をないがしろにする人が多いのに、
黒尾くんは基本的な姿勢は変わらない。
そういうところが
仕事の成長にも繋がってるんだろうけど。
「あ…うん。花巻さん、決裁取るって。
夜久くんにもあとで連絡入れとくわ。」
『マジすか⁈よかったー。』
黒尾くんと仕事の話をして、
わたしもさっきよりは少し落ち着いてきた。
「わたしのほうも無事終わったから、
今日はこれであがるわね。」
『はい。
あ、檜原さんのほうはどうでした?』
「え…?………」
『…檜原さん?』
「あ…えっと、ごめん!
聞こえなかった。なぁに?」
落ち着いたはずの心が一気に騒ついて、
つい聞こえなかったふりをしてしまう。
『いや、檜原さんのほうは
どうだったのかと思って。
◻︎◻︎のサンプル持ってったんですよね?』
「あ…うん。前に提案したやつと、
◻︎◻︎で検討してくれるコトになって…。」
『…檜原さん、大丈夫ですか?』
「え…?」
『いや、最近いつもと違うっつーか…』
「え〜?いつもと変わらないわよ?
黒尾くんも残業しないで早くあがりなさいよ?
じゃ、お疲れさま。」
『…はい。お疲れさまでした。』
最後は早口で、
しかもいつもよりテンションをあげて、
無理矢理黒尾くんとの電話を終わらせて、
逃げるように改札を通って電車に乗った。
どうしても一人になりたくなくて、
わたしはあそこへ向かった。
及川さんと会わないコトを願って…。