第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
-すみれside-
「檜原!データありがとな。
本当、助かったわ。」
月曜日の朝イチ、
先週わたしに仕事を押し付けた佐武さんが、
わざわざデスクまでお礼を言いに来てくれた。
「いえ。大きな"貸し"にしておきますので。」
「げっ⁈檜原の貸しなんて、
すげぇ怖いじゃねーか(笑)‼︎」
「それはそれでなんか酷いんですけど…。」
「ガハハッ…そっかぁ(笑)⁈」
「檜原さん!お電話大丈夫ですか?」
佐武さんに酷いあしらいを受けていると、
受話器を持った黒尾くんがわたしを呼んだ。
「じゃ、オレ行くな。」
佐武さんにペコリと会釈して、
わたしも受話器を手に取る。
「1番に青西の及川さんです。」
「えっ⁈」
先週、残業後に及川さんと映画を観てから…
仕事とはいえ、話すのはあの日以来。
今日の打ち合わせもなくなっていたから、
ちょっと安心していたのだけど…。
あの日、帰りの電車で
わたしはとんでもないコトを
言ってしまったから、会うのが怖い。
今思い出しただけでも恥ずかしい。
次を期待してるみたいな…勘違い女みたい。
でも、及川さんは、
わたしが家に着いた頃にLIN○をくれていた。
『今日はありがとう。
次のデート考えておくね。楽しみだな。』
普段の及川さんとどことなく雰囲気の違う
マジメな文章に思わずドキッとしてしまった。
♡マークがないほうが
ドキッとしてしまうなんて、
普通の可愛らしい人と、
やっぱり感覚が違うのかもしれない。
「檜原さん?」
不思議そうにわたしを見る
黒尾くんのことばにハッとして、
わたしはやっと電話に出た。
「お…お電話代わりました、檜原です!」
『どうしたの?なんか慌ててるけど…』
電話越しの及川さんにクスクス笑われてしまう。
「いえ…別に…」
『ふーん♪及川さんの声が聞きたくて
急いで電話に出てくれたと思ったのにー♪』
「違います‼︎」
及川さん…今、外だな…
チラリと電話のディスプレイを見ると、
携帯番号が表示されている。
外じゃないにしても一人のはず…
敬語じゃないし…
こっちが職場にいるのわかってて、
きっと、わざとだ…