第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
-及川side-
映画館を出て、檜原さんと並んで歩く。
朝の爽やかな空気の中で、
隣に檜原さんがいるだけで、
なんだかとても幸せな気持ちだった。
「ふぁ…」
「眠い?及川さんちで休んでく?」
「い…行きません‼︎」
檜原さんが小さくあくびをしたので、
冗談ぽくウチに誘うと、
やっぱり即答で断られてしまう。
いいんだけどね。
「なんでー?
一夜を共に過ごした仲じゃない♪
あ、一夜どころか、二夜目かー♪」
オレのコト、
本気で嫌がってるわけではなさそうだから。
「映画観ただけですっ‼︎
変な言い方しないでください‼︎」
コロコロ変わる檜原さんのこの表情は、
黒尾くんは知らないだろうな。
「別に変じゃないのにーー♪
そういえば、檜原さんて何線?」
「○○線です。」
「○○線?じゃあ、途中まで一緒だね。」
少しずつ明るくなってきた
朝の空を惜しみながら、
地下鉄の階段を降りて、
ガラガラの電車に檜原さんと並んで座った。
「映画、よかった?」
途中まで一緒とはいえ、実はたったの3駅。
少しでも長く檜原さんの声を聞いていたくて、
檜原さんに質問を投げかける。
「はい。」
今度も即答してくれて、ちょっと安心。
「あの…」
「なぁに?」
あまりオレの方を見ていなかった檜原さんが、
不意にオレの目をジッと見つめてくる。
「あの…今度というか、次…その…
及川さんの言う…残りの…」
「残りのデートのコト?」
オレがそう言うと、
檜原さんはコクンと頷いた。
「あと2回は…あの…
及川さんがしたい…デートにしてください。」
「え…?」
「わたしのコト、
優先してくれてばかりだから…。だから…」
…っ⁉︎
♪◻︎◻︎駅〜◻︎◻︎駅〜♪
嬉しすぎてことばが出ないでいると、
無情にも檜原さんの降りる駅に着いてしまう。
「今日は本当にありがとうございました。
気をつけて帰ってくださいね。」
ホームでペコリと頭を下げる檜原さんが
見えなくなるまで、
オレは電車の外を見つめ続けた。
ヤバイな…
こんな気持ち、初めてかもしれない。