第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
席に着いても、及川さんは
いろんなコトを気に掛けてくれる。
「お手洗い行く?」
「いえ。」
「寒くない?膝掛けもう一枚もらう?」
「いえ…大丈夫です。」
なんだか…
「及川さん…ママみたい。」
「え⁈」
及川さんのことだから、
ペアシートだったらどうしよう⁈
と、心配していたのだけど、
さすがに普通の席だった。
でも、この時間だと人は少なくて、
周りに人はいないから、
気持ち的にはあまり変わらない。
「なんか色々心配してくれるんで…。」
「及川さんはパパって言ったじゃーん‼︎
ママは、どっちかってゆーと、岩ちゃん!
まぁ、ママっていうよりお母ちゃんだけど。」
「岩泉さん⁈」
お店でひろみさんが着ているような
割烹着を着た岩泉さんを想像してみる。
「ふふっ…似合うかも…。」
「でしょー?
岩ちゃん、昔から風邪ひくなとか
夜更かしするなとかさ、
ほんとお母ちゃんみたいだったんだからー♪」
「でも、岩泉さんみたいなママだったら、
毎日楽しそうだなと思います。」
「え⁈なんでさ⁈」
「あ、でも、やっぱり、
ママはひろみさんでパパが岩泉さんですかね。」
「ちょっと‼︎なんでそーなるの⁈
檜原さんのパパは及川さんでしょ⁈」
「…話が飛躍し過ぎです。」
気持ちを落ち着けて冷静に返す。
さっきまで大人っぽく
わたしをからかっていた及川さんとは違い、
形勢逆転⁈わたしのほうが
及川さんを窘めているみたいだった。
わたしの浮き足立った気持ち…
ちゃんと隠せてる…よね。
全部自分なのに、
気持ちや表情、行動や言動、
すべてが矛盾している気がする。
「ふて寝してやるー‼︎」
「え⁈ふて寝って、もうすぐ始ま…⁈」
わたしが言い終わらないうちに
及川さんはわたしの膝に掛けてあった
膝掛けを広げ、自分の膝にも掛けると、
そのままコテンとわたしの肩にもたれてきた。
「シッ♪もうすぐ始まるよ?」
上目遣いで及川さんがわたしを見ると、
ちょうど暗くなって、映画の予告が始まった。
「お…及川さんっ‼︎」
「〜♪」
及川さんはスクリーンから目をはなさない。
〜〜っ‼︎絶対聞こえてるくせに‼︎
束の間の形勢逆転だった…
やっぱり及川さんにはかなわない…。