第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
「無責任に仕事を放り出すような人だと
思ってないから。
映画はいつでも観れるしね。」
ひどいことばを浴びせてしまったのに、
及川さんはとことん
優しいことばばかりをくれる。
どうしよう…
嬉しくて泣きそう…
今まで、こんな優しいことばをくれた人…
いただろうか…
「で…でも‼︎
わたしがもう帰っちゃってたら、
どうする気だったんですか⁈
及川さんまで、こんな遅くなって…」
ダメ…
嬉しいけど、泣いちゃダメ…
勘違い…しちゃダメだ…
「ふふ…優しいね。
オレのコト、心配してくれてるの?」
でも、及川さんは、
わたしの決意を崩すように
まるで子どもをあやすかのように話しながら、
わたしを優しく見つめていた。
優しいのは、及川さんのほうだ…。
「そ…そうじゃなくてっ‼︎
及川さんは、今日は定時で
あがれるはずだったんですよね⁈
わたし、定時前に…ギリギリだったけど…
連絡入れたはずです‼︎
わざわざ仕事して時間潰して
わたしなんか待たないで、
定時であがればよかったのに‼︎
なんで、そんな…⁈」
嬉しいのに…
こんなに嬉しいのに、
わたしの口からは、
少しも素直なことばを届けられないのに…
「だって、檜原さんに会いたかったんだもの。」
「…⁈」
及川さんの口からは、
まっすぐなことばがわたしに届いた。
「今日は、仕事を一日頑張って、
仕事終わったら、檜原さんと過ごすって、
朝から楽しみにしてたんだから。
それに、オレの時間なんだから、
仕事をいつ終わらせるかはオレの自由でしょ?
オレが自分で決めて、
檜原さんに会いに来たんだよ。
だから、檜原さんが気にするコトなんて、
一つもないんだよ。」
そうだ…及川さんはそういう人だった。
初めて会ったときも、
一ノ瀬さんにフラれたって言い方をしなかった。
一ノ瀬さんが気にしないように…。
いつも相手のことを一番に考えている人…
わたしのことまで…
「あ…の…‼︎」
「なぁに?」
だったら、わたしも…
「今日は本当にごめんなさい。
あと…ありがとうございました。」
「…うん。」
「来てくれて、嬉しかったです。」
わたしも少しくらい…
素直な気持ちを彼に届けたい。