第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
及川さんにLIN◯を送ってから、
スマホはバッグの中に入れ、
わたしは一度もスマホを見ないで、
仕事だけに集中した。
もし、及川さんから連絡が来たら、
平常心ではいられなくなっちゃうから。
でも…それは、好きとかじゃない。
ドタキャンしたコトが心苦しいから…
だから、こんなに気になってるだけ。
わたしの心の中なんて、誰も見ていないけど、
見苦しい言い訳を心の中でしながら、
わたしは仕事を続けた。
「檜原さん、まだかかりそうっすか?」
PCとにらめっこをしていると、
頭上から慣れ親しんだ声が降ってきた。
「…黒尾くん!あと少しかな。
って、もう22時⁈黒尾くんは終わりそう?」
今日、黒尾くんも残業だったんだ…。
全然気付かなかった。
「こないだ見てもらったヤツ、
部長からOK出たんで、それの仕上げしてて。
来週、クライアントに提出です。」
「そっかぁ。あれ、すごく良かったもんね!」
「檜原さんのおかげです!
ほんと、ありがとうございました!」
「わたしは最後にちょっと話聞いただけだよ?」
「いや、それがマジ助かったんで!」
成長した黒尾くんのことばに、
思わずわたしも笑顔になる。
「それなら、よかった!
…?そういえば、もう誰もいないんだね。」
ふと周りを見渡すと、いつのまにか、
残っているのは、
わたしと黒尾くんだけになっていた。
前ならこんな状況ドキドキしていたのに、
やっぱり今はなんとも思わない。
「そーっすね。つか、マジ手伝いますよ?」
「ありがとう。でも、もうできてるから、
あとは佐武さんにメールするだけ。」
「じゃ、鍵閉める準備しときますね。」
「え⁈大丈夫だよ。
黒尾くん、終わったんでしょ?」
「いや、でも…」
黒尾くんは、わたしと残業になると、
なんかしら理由をつけて、
いつも最後まで付き合ってくれる。
きっと、女一人残して帰れない…
そう思ってくれているのだろう。
「あとはメール送るだけだけど、
最後見直しもしたいから。
黒尾くんはもうあがって?」
「オレ、紳士なんでー。
女性一人残して帰れないんですー。」
…やっぱり。
黒尾くんは、いつもわたしが気にしないように
ちょっとふざけてくれる。
相変わらず優しいなぁ。