第46章 -運命-(及川徹)[完結編]
一度デスクに戻って、資料を取り、
2人分のコーヒーを持って会議室に戻ると、
及川さんは会社の袋から何かを取り出した。
資料…じゃない?
「檜原さんにお土産〜♪」
及川さんがわたしにくれたのは、
patisserieHYBAの小さな袋だった。
「あの…これ…?」
「今日発売の新作♪期間限定なんだって♪」
あ…そういえば、この間、
今度新作出るって灰羽さんが言ってたっけ…
「いいんですか?いただいても…」
わざわざ買ってきてくれたのかな…
どうしよう…ちょっと…嬉しい。
もう一つのプロジェクトも、
山場で忙しくて、
心が荒んでたから、余計に嬉しい。
「もちろん♪
マッキーたちに頼まれて朝から並んだんだよ〜。
せっかくだから、
檜原さんにも食べてほしくてさ♪」
「え…?」
"マッキー"ってたしか…花巻…さん…?
マッキー"たち”ってコトは、
きっと…一ノ瀬さんに…
胸がキュッと締め付けられて…苦しい。
…‼︎
違う…今のは、
わたしのために買ってきてくれたとか、
勘違いしてしまった自分が恥ずかしかっただけ。
及川さんは何も言っていないのに…。
会社の人のためにお菓子を買う。
それをたまには…って、
ついでに取引先の人にも買う。
よくある話じゃないか。
「檜原さん?」
及川さんに呼ばれてハッとする。
「…いえ!ありがとうございます!
後で皆でいただきますね。
灰羽さんのお菓子、好きな人多いから、
皆喜びます♪」
わたしはニッコリ微笑んでお礼を言った。
わたしに…って手渡してくれたけど、
わたしだけへ宛てたものじゃないのだから。
「…‼︎…………そう。
じゃあ、先週の続き、始めようか。」
…?
及川さんの表情が一瞬曇った気がしたけど、
それは気のせいだったみたいで、
打ち合わせはスムーズに進んだ。
でも…
スムーズだったけど…
なんだか今日はスムーズすぎた。
及川さんが雑談をしなかったから…。
早く打ち合わせ終わらせて、
会社に戻りたいのかな。
一ノ瀬さんにお土産を渡すために…。