第45章 -運命-(及川徹)[後編]
「決めた?」
コーヒーとお菓子を持って、
リビングに戻ると、
彼女はひとつのDVDを手にしていた。
「及川さん…こんなのも見るんですね。」
「あぁ…」
彼女が持っていたのは、
ネズミーアニメの『眠れる森の美女』
「姉さんが好きだったから、
小さい頃、よく一緒に見ててね。
コレだけはオレもずっと好きなんだよね。」
「なんか…意外です。」
「そう?王子様、カッコいいし、
オレにピッタリじゃない☆?」
「…。」
「ちょっ‼︎そんな冷たい目で見ないでよ‼︎」
今日、岩ちゃんたちと過ごしたからだろうか?
檜原さんの反応まで、
ちょっと岩ちゃん化している…。
「ふふ…及川さんらしいですね。」
「え…?」
冷たい目をしていた檜原さんが、
急に柔らかい表情になって笑った。
その笑顔は、さっき春人くんに見せていた
あの優しい笑顔で…
「及川さん?どうかしました?」
「…っ⁈いや…」
その笑顔をオレにも向けてくれたと思うと、
ものすごい嬉しかった。
「これ、実写化映画もうすぐ公開ですよね。
あの女優さん、わたし、大好きで…」
もうすぐ実写化映画が公開…
その映画に出る女優さんが好き…
次のデートの約束をするのに最良のトス。
そんな絶好なトスを、
オレはしっかり打つコトにした。
「じゃあ、次は映画デートにしようか。」
「え…?」
「2回目のデート♪」
「…はい。」
「…っ⁈」
また何か言い訳をして
一回は断られると思っていたのに、
彼女は断ることなく、小さな声で頷いてくれた。
「約束だよ?」
彼女のひとつひとつのことばや動きに、
オレはさっきからドキドキしてしまうけど、
余裕のないトコなんか見せたくなくて、
オレの顔を見られないように、
彼女の頭を優しく撫でた。
「及川さんっ‼︎早く見ましょう‼︎」
彼女はまた頬を赤くして、オレから離れた。
「はいはい♪」
DVDをセットしてソファへ行くと、
彼女は不自然なくらい離れて座った。
「そんな離れないでよ。」
「別に…」
「何もしないってば。おいで?」
そんな遠くじゃ、オレが淋しい。
オレは彼女の肩を引き寄せ、
ソファの背もたれに腕を伸ばしたまま、
DVDを再生した。