第7章 -先輩-(黒尾鉄朗)
「あぁ。」
オレのコトを”本題”と言ってくれて、
ちょっとテンションあがってるのに、
オレは努めてさっきまでと
同じテンションでこたえる。
「そっかぁ。クロなら大丈夫か。
クロは賢いし…
いつも周りを見てたしね。
でも、ムリしちゃダメよ?」
…っ⁈
「おいっ!」
すみれはオレの右側にいたが、
急に左側に移動して、
オレの左腕を見た。
「…やっぱり!
練習、頑張りすぎちゃった?」
「…なんでわかんだよ?」
たしかに…今日はいつもより
レシーブに気合を入れてしまい、
少しだけ左腕が腫れていた。
「クロの右側、久しぶりだもん。」
「は?」
「気付いてなかった?」
クスクス笑いながら、
すみれは続ける。
「クロって基本、
自分の左側をわたしに歩かせるのに、
左腕が痛い時は
わたしを右側に行かせるでしょ?
車道歩くときはいつも車側を
クロが歩いてくれるけど…。」
…っ⁈
なんでそんなことまでわかんだよ。
でも、理由は半分アタリで半分ハズレ。
「…たまたまだよ。」
痛めてる側にすみれがいたら、
いざって時守れねーから。
「そっか。」
そっか…と言いながらも、
すみれはニコニコしていた。
すみれに見透かされてる感が、
なんとなく悔しい。
「でも、ありがとね。
クロはやっぱり優しいなー。」
「惚れた?」
オレはなんとか主導権を握りたくて、
ニヤッとして聞いてみる。
すると、すみれの口から、
思いもよらない答えが返ってきた。
「とっくに惚れてるよ?」
………っ⁈
「はっ⁈」
「えっ⁈あっ…ゴメ…冗談…?」
さっきまで余裕そうだったすみれが
みるみる真っ赤になっていく。
「マジ…⁈」
オレは思わず立ち止まって聞いた。
「………マジ。」
小さい声ですみれが言った。
「あ…えと…困るよね。
こんな口うるさい年上の…」
…チュ。
オレはすみれのことばを遮り、
すみれにキスをした。
「クロっ⁈」
「好きな女が自分に惚れてて、
なんで困るんだよ?」
そう言ってオレは、
初めてすみれと手を繋いで歩いた。