第7章 -先輩-(黒尾鉄朗)
「だーれだっ⁈」
「おわぁっ⁈」
部活帰り、本屋に寄りたくて、
研磨と駅前で別れて、
珍しく1人で歩いていると、
突然後ろから人が飛びついてきた。
でも、驚いたのはたしかだが、
オレは声ですぐに誰だかわかった。
「すみれっ⁈」
「すみれ”さん”でしょー?」
オレに飛びついてきた彼女…
檜原すみれは
オレの1年上の先輩で、
元バレー部マネ。
先輩だけど、オレは何度言われても
呼び捨てをやめなかった。
年の差を意識されたくなかった。
「もう直の先輩じゃねーし、
いーじゃん。別にー。」
「なんかその言い方さみしー。
…?あれ?研磨は?」
さみしーと言っていたすみれは
どこへやら。
すぐに研磨の話になった。
「あのな〜?オレは24時間、
研磨と一緒なわけじゃねーのよ?」
「そっかそっか。
なんかわたしの中で
クロと研磨はセットなんだよね。
研磨は元気?皆とうまくやってる?」
オレより研磨かよ。
今会ってるの、オレだぞ…。
「あぁ。去年より楽しそうだよ。」
オレはチクリと…
少しだけ嫌味を言ってしまう。
去年の3年…すみれの代の奴らは、
練習はサボり気味のくせに、
上下関係にやたらうるさかった。
オレはまぁ…そういう奴らを
うまくかわすくらいはできたが、
研磨はそういうのが1番苦手だし、
実際に辞めそうな時もあった。
でも、研磨が去年1年
部活を辞めなかったのは
すみれの存在が大きい。
すみれだけは何かと、
3年とオレらの間に入り、
うまくまとめてくれていた。
すみれがいたから辞めなかった奴は、
研磨以外にも
何人かいるんじゃねーかと思う。
「そっかぁ。よかったぁ。」
オレの嫌味はまったく通じず、
すみれは心底安心したように、
ニッコリしていた。
「やっくんも海くんも頑張ってる?」
「あぁ。」
研磨の次は夜久に海…
オレはまたそっけなく答えてしまう。
「そっかそっか。じゃ、本題♪」
「あ?」
「クロは元気?頑張ってる?
主将は慣れた?」
…っ⁈
今日一番の笑顔で
すみれはオレの顔を
覗き込みながら聞いてきた。
…すみれにはかなわねぇな。