第45章 -運命-(及川徹)[後編]
結局たこ焼きソースとお菓子を買ってから、
及川さんちへ向かった。
及川さんが手をはなしてくれたのは、
お会計の時だけで、
スーパーを出てからも手を繋いだまま…。
「絶対、春人くんはラムネ選ぶから‼︎」
「この間、出張のお土産であげたお煎餅、
すごく気に入って食べてたって、
ひろみさん言ってたもん!」
子どものような発言ばかりしている
及川さんの手は、大きくて温かくて、
このままずっと手を繋いでいたい気がする。
そういえば、この間、
タクシーの中でもそう思ったっけ…
でも、”気がする”だけ。
いつもとちょっと違うコトだらけだから、
勘違いしているだけ…。
「及川さん…そろそろはなしてください。」
及川さんのマンションまで着いたのに、
及川さんはまだ手を繋いだまま
はなしてくれない。
わたしは、自分の気持ちに気付きたくなくて、
一刻も早く及川さんの手をはなしたかった。
「や〜だ☆」
及川さんはわたしの荷物と
買い物した荷物も持っているのに、
わたしの手をはなさずに、
エレベーターのボタンを押した。
「あとちょっとなんだから、
今はなしても変わんないでしょ♪」
「か…変わり…」
わたしが言いかけると、
ちょうどエレベーターが来て、
中から家族連れが降りて来た。
「あ!こんにちは♪」
及川さんが爽やかスマイルを向けた家族連れは、
この間の朝、エレベーターですれ違った
奥さまのうちの一人で、
今日は旦那さんとお子さんも一緒だった。
「こんにちはぁぁ‼︎」
「こんにちは♪
ちゃんとご挨拶できておりこうさんだね。」
「…っ⁈」
小さな男のコが元気に
笑顔で挨拶してくれたので、
わたしも笑顔で挨拶を返してから、
エレベーターに乗り込んだ。
「オレにもあんな可愛い笑顔を
見せてくれたら、いーのに☆」
「え⁈」
思わず及川さんを見上げると、
及川さんはまた優しい顔でわたしを見ている。
「あ…手‼︎ほら‼︎手、繋ぎっぱなしだったから、
またあの奥さまに疑われちゃ…」
「いいじゃない♪事実にしちゃう?」
「しません‼︎」
慌てて話をそらすと、また及川さんは
人をドキドキさせるようなコトを
平気で言ってきた。
ほんと…及川さんと一緒にいると、
心臓がいくつあっても足りない。