第45章 -運命-(及川徹)[後編]
そんなわけで、わたしは、
ついこの間来たばかりの…
もう二度と降り立たないと思っていた駅に
降り立っていたのだった。
ちょっと早いから、
お手洗いで鏡を見直してから、
改札を抜けると、
約束の時間の10分前だというのに、
及川さんは改札前にいて、
ニッコリ笑顔で手を振っていた。
わたしの横を通り抜けていった女子高生たちが
「あの人カッコいい!」なんて言っていて、
その、カッコいい人が待っているのが、
わたしだと思うと、
なんだかくすぐったい気持ちになってくる。
「すみません…お待たせしました。」
「待ってないよ。オレも今来たトコ♪
檜原さん、早めに来ると思ってたからさ。」
「…なんでですか?」
「仕事も前倒せるコトは前倒してくし、
こないだウチに泊まった時も、
遅刻しちゃう‼︎って時間気にしてたしね。」
「……」
ほんとよく気付くなぁ…
でも…
「貸して?持つよ。」
及川さんはわたしが持っていた紙袋を
2つともサッと取ってしまった。
「これくらい大丈夫ですよ。」
「ダーメ。それじゃ、オレが
女のコに荷物持たせてるみたいじゃん。」
「…誰もそこまで見てませんよ。
それに前から気になってたんですけど、おん…」
「えー?何〜?そんなにオレのコト、
気になってくれてたの♪?」
「違いますっ‼︎そういう意味じゃなくて‼︎」
「ふふ…照れなくていーのに♪」
「照れてるんじゃなくてっ‼︎」
あ〜‼︎もう‼︎及川さんといると調子狂う‼︎
「で?何が気になってたの?」
…っ⁈
人の話を遮って、
散々人を茶化したと思ったら、及川さんは、
ニッコリ微笑んでマジメに聞いてきた。
ほんと…調子狂う。
「及川さんて、”女のコ”って言いますよね。」
「え?だって、檜原さんは女のコでしょ?」
「そうですけど…もう…」
「檜原さんて男のコだったの(笑)?」
「違っ…‼︎もう‼︎そうじゃなくて‼︎」
またしても人の話を遮った及川さんは、
とことんふざけてきて、
わたしはその度に感情を露わにしてしまう。
こんなのヤダ‼︎恥ずかしいのに…。
「なぁに?」
自分で茶化して遮ったくせに、及川さんは、
また優しい目をしてわたしのことばを促す。