第44章 -運命-(及川徹)[中編]
「檜原さん‼︎
昨日はありがとうございました!」
夜久くんと谷地さんと雑談をしていると、
もう出勤していたらしい黒尾くんが、
最近よく飲んでいるカフェの
コーヒーを持ちながら、席に戻って来た。
「こちらこそ。お疲れさまでした。」
「昨日、大丈夫でしたか?」
「もちろん。
そんなに酔ってなかったのよ?」
大丈夫じゃなかったわよ…
もう何がなんだかわからない‼︎
…なんて、口が裂けても言えない。
「それならいいんですけど、
及川さんと一緒だったから…」
「…っ⁈及川さんと一緒だったらなぁに?」
思わず反応してしまいそうになるのを、
必死で抑えて、冷静を装う。
「いや、昨日、赤坂行く前、
なんか及川さん不自然だったんで。」
…‼︎
ほんと…黒尾くんてよく見てる…
たしかにあの時の及川さん、変だったけど…
「一緒に帰ったくらいで何もないわよ。
そもそも相手は取引先の人よ?」
「でも、その取引先の人に
手を出したのはクロだけどなっ♪」
「夜っくん‼︎」
「え⁈黒尾さんの彼女さん、
青西建設の方なんですか?」
「そういえば、そうよね。
昨日会えなくて残念だったわ〜。」
夜久くんが突然、
黒尾くんの彼女の話を持ち出して、
谷地さんも興味津々…
わたしはというと…
昨日まで、その話はキツかったはずなのに、
今日は心が痛くない…。
なんで…?
「あれ?檜原さん、会わなかったんですか?
クロ、昨日会ったって…」
「会ったの⁈黒尾くん、言いなさいよ!」
「あー…なんつぅか、及川さんと檜原さんが
引き返した直後に偶然会ったんで…」
「え…?」
あの時…?
黒尾くんが不自然だと思った行動…
突然わたしをタクシーに押し込み、
黒尾くんを置いて二人で先に赤坂へ行った…
及川さん、もしかして…
わたしが一ノ瀬さんと会わないように…⁈
黒尾くんと一ノ瀬さんがいるところを、
わたしに見せないために⁈
ううん…
及川さん自身が会いたくなかったのかも…
わたしはついで…
最初に感じた気持ちを
いろんなことばで打ち消そうとすればするほど、
及川さんの優しさを感じてしまう。
昨日から、わたしは及川さんの優しさを
どれだけ受けていたのだろう。