第44章 -運命-(及川徹)[中編]
-すみれside-
はぁぁ…
なんて一日だったんだろう…
って、今日まだ始まったばかりなんだけど…
及川さんと改札で別れ、
ずっと何も考えられず、
気がついたら会社の駅に着いていた。
いつもよりは遅くなってしまったけど、
まだ間に合う時間だ。
「あ‼︎檜原さーーん‼︎
おはようございまーす‼︎」
patisserieHYBAの前で、
灰羽さんが看板を出しながら、
大きく手をブンブン振っている。
「灰羽さん⁈おはようございます。」
「この間はありがとうございました‼︎」
「いえ、こちらこそ。
新店も好調みたいですね。」
「はい〜♪世界一目指してるんで‼︎」
真っ直ぐで無邪気な灰羽さんには、
いつも元気をもらう気がする。
「わたしも応援してますね。」
「ありがとうございます!
あれ?ウチの袋だ…」
…⁈
灰羽さんはわたしの手の中にある
紙袋を見て呟いた。
「あぁ。友だちに服を借りてて…
patisserieHYBAの袋、オシャレだから、
使っちゃいました。
あ!でも、袋だけじゃなくて、
お礼に中身買ってこうと思ってたので、
帰りに寄らせていただきますね。」
灰羽さんは何気なく
自分のお店の袋に気付いただけだと思う。
そう思うのに、
なんだか気持ちが焦ってしまい、
余計なことまで言ってしまった。
「ありがとうございまーす!」
なんだかまた体力を使った気がするけど、
灰羽さんと別れ、やっと会社に着いた。
「おはよう。」
自分の席に座ると、
夜久くんが声を掛けてくれる。
「おはようございます!
檜原さん、今日いつもより遅いっすね。」
「え⁈あ…そうね。昨日、接待だったから…」
「あ!そうでしたよね。お疲れさまでした!」
夜久くんは、わたしの焦りには
気付かなかったようで、
わたしの心臓は少し落ち着いてきた。
「おはようございます!」
「おはよう。」
「うーっす!」
「檜原さんの今日の服、ステキですね〜♪」
…っ⁈
「そう?ありがとう。」
隣の席の新人の谷地さんが、
今日の服を褒めてくれたけど、
それと同時に思わずさっきの
及川さんのことばを思い出してしまう。
でも、表情には出さないように、
二人と笑顔で会話を続けた。